日商 Assist Biz

更新

コラム石垣 2016年11月1日号 宇津井輝史

ノーベル賞を過大評価すべきでないとの意見がある。確かに文学賞や平和賞は主宰者の主観が入る。私見ながら詩人ボブ・ディランを高く評価していたから、文学賞の受賞は朗報だが、歌手の受賞に違和感を持つ人もいよう。しかし自然科学分野の受賞は(誰に与えるかは主観だが)確かな真理に裏付けられている。科学は主観が入り込む余地のない真理の探究だ。何度実験を重ねても同じ結果が出る。例外はない。

▼自然科学分野では今年も日本人が受賞した。生理学・医学賞の大隅良典さん。食物摂取だけでは足りないたんぱく質を、細胞が自ら分解してリサイクルするオートファジーの仕組みを発見したことが評価された。生命現象の根源的な解明に迫るとともに、難病の治療やがん細胞の抑制に効果を発揮することが期待されている。だが、大隅さんはこの国に警鐘を鳴らすのも忘れなかった。

▼受賞後の講演で、基礎研究にじっくり取り組むのが困難な日本の科学研究の窮状を訴えた。政府や産業界は、どうしてもすぐ役立つ研究に予算を付けがちだ。地味な基礎研究に取り組む企業も少なくないが、経営者は、短期的成果を求める株主の要求にも応えねばならない。研究目標を定め、既存の科学の知見を用いて成果を生むのとは別に、新しい価値や目標自体を追求する余裕がない。一方で大学も、国の交付金が減り、成果の見えやすい応募型の補助金に傾斜しがちだが、どんな研究がどの水準にあるかが産業界に伝わっていないのも現状だろう。

▼産学連携がいまほど重要なときはあるまい。商工会議所もこの分野に取り組んできたが、研究の大小を問わず、産学の間に立って得意のマッチング能力をきめ細かに発揮すべきである。

(文章ラボ主宰・宇津井輝史)

次の記事

公益社団法人日本観光振興協会総合研究所長・丁野朗

昨年は、外国人観光客による消費が大幅に増加した。2015年の訪日外国人消費額は約3・5兆円に達し、前年の約2兆円に比べ72%増となった。その過半は、中国人観光客による買い物消…

前の記事

神田玲子・総合研究開発機構理事

市場での「競争」について、進化生物学者から異論が出されている。ダーウィンの自然淘汰は、優れた生物が生き残ってきたというのではなく、偶然による環境変化に適したものが生…

関連記事

政治経済社会研究所代表 中山文麿

今回の米国大統領選挙は、トランプ氏を絶対に再選させたくない民主党と熱狂的な支持者からなるトランプ党との戦いだった。トランプ支持者は戸別訪問などどぶ板選挙も行い、前回…

時事総合研究所客員研究員 中村恒夫

アニメ映画「鬼滅の刃・無限列車編」が空前ともいえるブームを巻き起こしている。目を見張るのは観客動員数だけでなく、関連グッズの多さだ。二番煎じ以降になると、効果もそが…

東洋大学大学院国際観光学部客員教授 丁野朗

2015年に創設された「日本遺産」は、今年6月、新たに21件が認定、合計104件となり、当初予定の認定数に達した。今後は新たな認定は行わないが、そのさらなる磨き上げに力を入れ…