日商 Assist Biz

更新

コラム石垣 2016年5月21日号 宇津井輝史

一片のブログから保育園不足が国会論議になったのは記憶に新しい。ソーシャルメディアが社会を動かす力を持った証左だが、一方で税金が必要なところに使われていないのでは、という納税者の共有感覚をも刺激した出来事だった。見返りがないから節税したい、そんな風潮は以前からあった。だがいまや、税は国の中で循環するものではなく、租税競争が国家の課税基盤を揺るがし、納税者の信頼を損なわしめる時代になった。

▼努力して蓄財した富裕層は金融資産を税のかからない地域に置きたい。利益を蓄えたグローバル企業は税率の低い地域で納税できるよう調整する。こうして課税を免れたい資金がタックスヘイブン(租税回避地)に流れる土壌がつくられた。英領ジャージー諸島でその実態の一部が明るみに出て、G8が対策を協議したのは3年前のことである。だが先月、今度は「パナマ文書」が世界にさらされた。

▼カリブ海の島などに多いタックスヘイブン。簡単な手続きでペーパーカンパニーができる。資産所有者の情報などはほぼ完全に秘匿される。パナマやケイマン諸島には法人税がない。

▼いまのところ合法だが、脱税や投機資金のマネーゲームに使われて金融危機の引き金になる魔物でもある。90年代後半のアジア通貨危機も、投資家が為替相場を誘導したのがきっかけだが、その資金はタックスヘイブンで集められた。テロ組織が資金洗浄に利用しているとの疑念も消えない。

▼タイミングよく開かれたG20は税逃れ阻止に協調する姿勢を見せた。だが市場は回避地の存在を織り込んでもいる。抜け道をふさぐのは容易ではなかろう。いまや新帝国主義の時代である。皇帝のようにふるまう元首も少なくない。

(文章ラボ主宰・宇津井輝史)

次の記事

コラム石垣 2016年6月1日号 丁野朗

公益社団法人日本観光振興協会総合研究所長・丁野朗

数年前から言われ始めた六次産業化。農業経済学者で東京大学名誉教授・今村奈良臣さんの命名という。その意味は農林水産品の加工・販売や観光農園...

前の記事

コラム石垣 2016年5月1日号 神田玲子

神田玲子・総合研究開発機構理事

政局も絡んで消費税率の引き上げ時期についての議論が進んでいる。熊本地震に見舞われた人々に思いをはせれば引き上げを延期すべきという意見には...

関連記事

コラム石垣 2021年9月1日号 神田玲子

NIRA総合研究開発機構 神田玲子

新型コロナ感染症による医療現場の逼迫(ひっぱく)が、閾値を超えた。感染症の発生から1年半が経過した今も保健所の過重な業務量、低調なPCR検査、...

コラム石垣 2021年7月11日号 宇津井輝史

コラムニスト 宇津井輝史

アフリカで生まれた人類は、ユーラシアから南米の南端までを数万年かけて歩いて渡った。やがて海は、陸と陸を隔てるものから、つなぐものに変わっ...

コラム石垣 2021年7月1日号 神田玲子

NIRA総合研究開発機構理事 神田玲子

新型コロナウイルス感染症との闘いを通して、各国が団結して行動する機運が生まれている。そう考える理由の一つが、グローバルな法人税制ルールの...