各地を訪ねると、その町独特の「空気感」のようなものを感じる。だが、あらためて空気感とは何かと問われると答えに窮してしまう。
▼山口県萩の城下町を歩くと、武士の精神のようなものを強く感じ、横須賀や佐世保などでは異国の雰囲気と独特の緊張感を感じる。修験者の山に分け入ると、宇宙の気のようなものを感じる。空気感といった抽象的な物言いをしなくても、清らかな水が流れるまちを訪ねると、やはり心癒される。
▼最近訪ねた山形県長井市は、日本三大急流の一つ最上川の最上流部にある旧米沢藩の港町である。吉永小百合さんが出演するJR東日本の「大人の休日倶楽部」のポスターで「山の港町」としてPRされて以来、少しずつ訪ねる人も増えた。山形県の山間部にあって、建物や蔵、庭などはいずれも京風で、家屋の中に水を引いて洗い物ができる近江ゆかりの「入れかわど」を見たときは驚いた。さらには硬度21という超軟水にも衝撃を受けた。ホテルの冷蔵庫に入っていた水は実に柔らかく、市販の水とは比べものにならない。まちなかに出ると水路が立体交差し、清流にしか生息しないバイカモ(梅花藻)が浮かんでいる。
▼しかし、こんなにすごい資源を地元の人々は何とも思っていない。その価値に気が付いていないのだろう。概して、地域の資源や魅力、そして冒頭に触れた空気感は、地元の人ほど感じていないように思われる。
▼海外からの顧客が増加し、地方の魅力をアピールしたいと言っている割には、こうした共感できる資源の掘り起こしと意識的な広報戦略ができていない。地方の本当の魅力とは、こうした暮らしの文化を丹念に掘り起こすことだと考える。
(公益社団法人日本観光振興協会総合研究所長・丁野朗)
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