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コラム石垣 2015年3月21日号 神田玲子

人々の生活ぶりは、経済の影響を大きく受ける。しかし実は、生活を左右するのは景気ではなく、経済政策だという。

▼ギリシャでは、緊縮財政による社会保障給付の大幅な削減で多くの自殺者が出たが、他方、経済危機に陥ったアイスランドでは、危機においても給付を削減しなかったために国民の生活は困窮を極めなかったという(『経済政策で人は死ぬか』スタックラー他)。両国の成否を分けたのは、危機時の政策の違いだ。

▼さて、果たして日本の経済政策は、危機から人々を救えるのか。子どもの貧困、女性の就業難、ひきこもり、介護退職、寝たきり、障がい者の自立困難など、支援や配慮が必要な人は多い。高校を中退する人の数は毎年十万人近くに上り、平均的な母子家庭は三百万円以下の生活費で暮らしている。残念ながら、現行の制度は無駄な給付も多く、真に困っている人が自立するための支援になっていない。大規模な経済危機が発生すれば、これらの人々の多くが生活保護に依存せざるを得なくなる仕組みだ。

▼しかも、皮肉なことに、社会保障支出は増大するばかりで、これを放置すれば、それが経済の不安定の引き金にもなりかねない。一部に、今はデフレ脱却を優先し、歳出改革を遅らせるべきという見方もあるが、それは、かえって弱い立場にいる人をリスクに晒す結果となる。

▼今やるべきことは、危機に陥ることを防ぎ、かつ、危機時でも対応できる効果的な自立支援体制を整備することだ。そのために、行政や給付の供給体制を抜本的に見直し、資金を捻出する。恐れるべきは、社会保障改革による経済状況へのマイナスではなく、改革を先送りする政策の不作為である。

(神田玲子・総合研究開発機構研究調査理事)

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