景気の回復傾向を背景に、来春の新卒予定者の就職内定率が高まっている。「売り手市場」とすらいわれるほどで、必要な人材の確保に苦しんでいる中堅・中小企業は少なくないようだ。その一方で、優秀な学生をきちんと集めている企業がある点も無視できない。
▼「大企業と比べると、知名度、安定性の面で負けるから仕方ない」と初めから白旗を掲げる経営者は、まず、採用競争で何が欠けているか、考え直してみる必要がある。確かに、就職にまで親が口出しするケースが増えている現代は、知名度と安定性が重視されがちだ。しかし、そういった面を超える特長を持っていれば、学生に十分アピールできるのではないか。
▼取引先・納入先の多さや、シェアの高い製品、独自のサービス形態などを自慢するのも悪くはないが、何よりも大切なのは、確固たる企業理念を構築することであろう。無借金だとか設備投資比率が高いといった経営手法ではなく、この企業は社会にどんな貢献をし、何のために存在しているかを明記するという意味だ。「経営の維持が精いっぱいなのに、そんなことを考える余裕はない」と思われるかもしれない。青臭く聞こえるとしても「自分の仕事は社会のこんな面に役に立っている」という『やりがい』を感じることが、就職先を決める際のモチベーションになり得ると、筆者自身、採用活動を通して感じている。
▼同時に、必ずしも新卒にこだわるべきではないと思う。最初に就職した企業と、どうしても肌が合わなくて退職した若者の中には、逆に自社に合う原石も含まれている可能性がある。それを見つけ出すことができるのなら、競争率の高い新卒市場に無理に参入する必要もない。
(時事通信社経理局長・中村恒夫)
最新号を紙面で読める!