今年6月、ドーハで開催された世界遺産委員会で、富岡製糸場が晴れて世界遺産に登録された。
▼富岡製糸場は、世界文化遺産の6つの登録基準のうち、「建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの」「人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例」という2つの基準が推薦理由となった。
▼富岡製糸場は、日本の近代化のごく初期の段階で、フランスからの近代的器械製糸技術の導入・移転に成功した。その背景には、地元での長年の養蚕・製糸の伝統がある。日本の製糸技術・産業発展の拠点となり、20世紀初頭の世界の生糸市場における日本の役割を証明するモデルとなった。当時としては世界最大級の大規模工場であったが、建物自体は、和洋折衷という日本特有の産業建築洋式の初期のモデルでもあった。
▼世界遺産登録前から、富岡には多くの観光客が押し寄せている。登録後9月半ばの3連休には、1日の入場者が9千人を超える大混雑となった。このまま推移すれば年間120万人ほどの入場者になるとの予想もある。人が歩けばまちはよみがえる。長年、眠ったようなまちが一気に目覚めたかのようだ。
▼しかし、ブームは必ず沈静化する。そのときをにらんだ持続的なまちづくりのビジョンづくりこそが急務である。
▼世界遺産登録では戦略上4つの構成資産に絞り込んだ。しかし、北関東に数多く残る養蚕・製糸・絹織物の文化は、横浜とつながる日本のシルクロードである。富岡製糸場を真の人類遺産とし、世界に向けてアピールするには、こうした広域連携による取り組みが不可欠であろう。
(公益社団法人日本観光振興協会総合研究所長丁野朗)
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