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コラム石垣 2014年8月21日号 丁野朗

地域に残る歴史的建造物群や固有景観、さらには伝統の食や工芸品などは、観光にとっては最大の資源である。その資源が魅力的で価値を発信し続けることができなければ、地域観光の持続性は危うくなる。

▼だが、観光に携わる側の人々は、往々にして、これら資源の保全には無関心のように見える。かやぶき屋根の古民家群が集積し、多くの観光バスが訪れる地域でも、補修に必要なカヤを安定的に提供する茅場の維持やかやぶき職人の確保・継承に関心を持つ人は意外と少ない。また、地域の伝統工芸や固有の食・食文化の多くが、後継者難などで次代への継承が危ういといった状況であるにもかかわらず、観光側からの取り組みは乏しい。

▼翻って、これら歴史的資源や文化資源、景観は誰が守ってきたのか。それは地域に根付いた産業や人々の暮らしと生業であろう。であるならば、その衰退こそが、地域資源の喪失につながっていると見ることもできる。ならば、こうした地域産業・生業に新たな価値を付与し、次代につなげていくことが大きな課題になる。

▼本連載でも紹介した飛騨高山の春慶塗職人が、イタリアの楽器職人とコラボレーションして、危機に立つ春慶塗の新しい分野を開拓した事例や、宮城県栗原市で古い歴史を持つ農家民宿が、150年前のレシピを復活し新たな地域食と食文化を創造しているといった事例は、その好例となろう。

▼観光には地域産業のイノベーションを促し、地域の文化や歴史資源の継承・活用を図る大きな役割がある。逆に言えば、そのような取り組みに係ることができなければ、観光産業も自らの価値を高め持続的な産業にはなれないのではないかと思う。

(公益社団法人日本観光振興協会総合研究所長・丁野朗)

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