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こうしてヒット商品は生まれた! 四万十ひのき まな板

同社の主力商品、ヒノキの一枚板でつくった「四万十ひのき極めまな板」。長辺の縁が丸く削られていて手になじみやすく、自立スタンドがついて収納スペースを取らないところが人気の秘密だ。サイズは5種類、2800~7500円(税別)

市域の大半を山林が占める高知県須崎市で、1970年に創業した土佐龍。地域資源の木を活用して、さまざまな家庭用品を生み出してきたが、その主力である「四万十ひのき まな板」が、発売から40年近くたった今でも売れ続けている。包丁傷がつきにくく、手入れの簡単なプラスチック製が重宝がられる中、昔ながらの木製まな板が支持されている理由とは何か。

観光土産の木工品が大ヒットしたが……

ヒノキは、日本と台湾のみに分布する針葉樹である。加工が容易で狂いがないことに加え、日本人好みの強い芳香があり、古くから最高品質の建材として広く活用されてきた。産地は広範囲に分布しているが、高知県に生育するヒノキは油成分が多く、抗菌、防カビ作用にも優れているという。その性質を生かして、1980年に商品化されたのが「四万十(しまんと)ひのき まな板」だ。水に強く、乾きやすいのに加え、食材の匂いも移りにくいなど高い機能を備えた同商品は、本物志向の消費者の支持を受けてロングセラーとなっている。

同商品を開発した土佐龍(とさりゅう)は、70年に観光土産品の製造販売で創業した。もともとものづくりに興味のあった社長の池龍昇(いけりゅうしょう)さんが、宮城県の鳴子温泉で伝統工芸品のこけしを見た際に「これだ!」と直感し、事業を思い付いたのだという。材料となる木材なら地元でいくらでも調達できる上、大きな機械がなくても製造できると考えた。

「ひと目で高知県らしさが伝わるものがいいと、土佐犬の木彫りをつくることにしたんです。材料には安価なクスノキを使い、1年くらい試行錯誤をしてようやく完成しました。市場には類似品がほとんどなかったので、自分でもびっくりするくらいよく売れました」と池さんは振り返る。

当時の旅行土産といえば、その土地にちなんだ置き物が一般的だったことから、土佐犬の木彫りはたちまち高知土産として認知され、売り上げを伸ばした。その後もさまざまな木工品を生み出したが、7~8年たったころに潮目が変わった。土産物のニーズが、家にたまっていく置き物から食べ物にシフトしていったのだ。

「土産物づくりは、いわば受け身の仕事。高知に観光客が来なければ売れません。これからは全国を相手に家庭用品をつくり、自分から売りに行こうと思いました」

池さんはそれまでにつくった木彫りの販売権を知人に譲り、「退路を断って」新事業に乗り出した。

「四万十ひのき」と命名して既存の製品と区別しヒットへ

池さんはあらためて森林資源について勉強した。すると四万十川の中上流域には、降雨や強風に耐える弾力性を保つために、油成分の多い良質なヒノキが育つことを知る。その性質を生かすなら「まな板がいい」と直感した。ところが、一筋縄ではいかなかった。

「当時は製材業が盛んだったので、材料を買おうにも大量に仕入れる相手しか、相手にしてくれませんでした。それならと製材屋を訪ね、建材としては使えない端材を売ってもらい、集成材にして使うことにしました」

一枚板と集成材では、ほとんど機能は変わらないという。むしろ20%ほどコストダウンできるので、お客にも喜ばれるだろうと考えた。しかし、今度は問屋から相手にされなかった。まな板メーカーはほかにもたくさんあり、新規参入の小さなメーカーがいくら品質をアピールしても、既存商品と差別化することができなかったのだ。

「ならば、まだ市場にはないものをつくってやろうと。日本では主に台所で調理しますが、欧米ではテーブルで調理する。その際よく使われるのがカッティングボードです。いずれ日本にもそんな時代が来るのを見越して、小振りで見た目にもかわいい丸形やリンゴ形をしたカッティングボードをつくり、再度問屋に売り込みをかけました」

池さんの読みが当たり、カッティングボードは売れに売れた。その実績が認められて、まな板を扱ってもらえることになった。ほかのまな板と区別するため、池さんは材料のヒノキを『四万十ひのき』と命名。『四万十ひのきまな板』の商品名で、主に専門店や百貨店などに販路を絞って販売を開始した。

“木の料理人”として素材を余すところなく生かす

以来、40年近くにわたり、年間平均26万枚のペースで売れ続けているという。もちろん、その過程ではさまざまな改良が行われてきた。例えば、当初は厚みが3㎝ほどあり重かったが、木をじっくり乾燥させて反りを防いだことで、2㎝の薄さと軽量化を実現した。また、持ち運びしやすいように取っ手を設けたり、省スペースのために自立スタンドを取り付けたりした。天然木の導管の断面から水が染み込んで黒ずむのを防ぐため、食品にも安全なナノテクのポリマーコーティングを施し、衛生面の機能も強化した。

そして最も心を砕いてきたのは、木を余すところなく使うことだ。

「一般的に、1本の丸太から活用されるのは60%程度。残りの40%は捨てられてしまいます。けれど、豊かな森となって人々の暮らしに恵みを与えてくれた木を無駄にしたくありません。そこで私は“木の料理人”として、常に廃棄部分の活用法を考えてきました。その結果、商品は400アイテムにまで増え、廃棄の割合も20%まで減らすことができました」

そうして誕生した商品は海外からも高く評価され、現在7カ国で販売されている。例えばドイツでは、世界的な刃物メーカーのヘンケルスとコラボして、「包丁&まな板」をセットで販売するなど、新たな販路を開拓している。とはいえ、池さんは大量生産に舵(かじ)を切ろうとは考えていない。

「うちは従業員が30人ほどの小さな会社ですが、これくらいがちょうどいい。これからも企画開発力を高め、丁寧なものづくりを続けていきたい」と満面の笑みを浮かべた。

会社データ

社名:株式会社土佐龍

所在地:高知県須崎市浦ノ内東分2830

電話:0889-49-0111

HP:http://www.tosaryu.com/

代表者:池龍昇 代表取締役社長

設立:1979年

従業員:32人

※月刊石垣2018年8月号に掲載された記事です。

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