北に名峰・浅間山を望む信州小諸。その南西部に広がる御牧ケ原高原で育った「白土ばれいしょ」を主原料につくられたのが「御牧ケ原ポタージュスープ」だ。収穫した新じゃがしか使わないため、期間限定、数量限定、地域限定で販売されている同商品だが、とろけるようなコクと甘味で多くの固定ファンを獲得している。
幻の地域食材を絶やさないために商品開発
「白土ばれいしょ」とは、千曲川と鹿曲川にはさまれた御牧ケ原高原で生産されているジャガイモ。品種は男爵いもと同じだが、準高冷地で年間雨量が少なく、有機質を多く含んだ重粘土質の土壌で育つことにより、強い粘りと甘味を持つ。しかも、ジャガイモの味の決め手とされるでんぷんが、通常より4%以上多い15%も含まれており、ゆでると肌が白くて粉がよくふき、ホクホクとした食感があるのが特徴だ。
そんな白土ばれいしょを主原料に開発されたのが「御牧ケ原ポタージュスープ」だ。毎年7~8月に収穫された新じゃがだけを使い、素材の持つ粘度、甘味、白さを生かして、風味豊かに仕上げた逸品で、温めても冷やして飲んでもおいしい。そのため2003年秋の発売当初から地元で注目を集め、1万5000袋が瞬く間に完売した。その後、ピーク時には6万2000袋を売り上げ、現在でも年間平均2万5000袋ペースで売れ続けている。
この地域の人気商品を企画・開発したのは、小諸商工会議所だ。
「白土ばれいしょは昔からこの辺りで栽培されてきましたが、地元にはほとんど流通していませんでした。というのも、1953年に初めて大阪市場に出荷された際、『信州にこんなに高品質なジャガイモがあったのか』と一躍脚光を浴び、以降ほとんどが大阪方面に出荷され、高級料亭や割烹旅館などで消費されてきたからです。そのため幻の食材といわれていました」と小諸商工会議所総務企画課主事の宮坂鉄也さんは説明する。
ところが、85年ごろから生産者の高齢化による作付面積の縮小などで、生産量は減少の一途をたどる。文字通り“幻”となりつつある白土ばれいしょを復活させ、地元で、そして全国で味わってほしいという声が高まり、2002年に同所が中心となって商品開発に乗り出した。
期間・地域・数量限定で市内中心に発売開始
まず、同所内に「小諸市TMO(まちづくり機関)特産品開発部会」を設置し、白土ばれいしょを使った新たな商品を生み出すことを目的に、「創作料理コンテスト」を企画した。広く市民からアイデア料理を募り、人気を集めたレシピをヒントに商品開発をしようと考えたのだ。
「飲食店や主婦の方などから多数の応募がありました。選考の結果、グランプリを獲得したのは、いわゆる惣菜のような料理で日持ちがしないものでした。白土ばれいしょの収穫期は夏場だけなので、商品化するなら保存がきくことが鉄則です。そこで他の入賞料理の中から、スープに白羽の矢が立ちました」
その料理は、小諸駅前にある飲食店が考案したビシソワーズだった。ビシソワーズとは、ジャガイモにブイヨンを加えて煮たものを裏ごしし、生クリームで伸ばした冷製ポタージュだ。滑らかな舌触りの中に、ジャガイモのシャリシャリとした食感が持ち味のスープだが、できれば温冷いずれでも味わえるものにしたいと考えた。そこで試作を重ね、2回ほど大幅にレシピの修正を行って、ようやくスタッフ全員が納得のいくものが完成した。
「毎年10月初旬に『信州小諸ふーどまつり』という食文化(FOOD)と地域性(風土)、そしてまち歩き(FOOT)を目的としたイベントが開催されます。その日を『御牧ケ原ポタージュスープ』の発売日とし、その場に集まった方たちに試食とアンケートをお願いしました。250を超える回答結果は、『大変おいしい』と『おいしい』を合わせると約8割に上り、大いに手応えを感じました」
こうして同商品は一気に注目を集め、初回に生産した5000袋はあっという間に完売した。慌てて1万袋を追加生産し、期間限定、数量限定、地域限定をうたって、市内の食料品店を中心に販売をスタートした。
「御牧ケ原」の名の下に地域ブランドを育てる
地元の特産品でありながら、地元では食べられてこなかった白土ばれいしょの味わいは、多くの市民の味覚をとらえた。初年度の売れ行きが好調だったため、2年目は生産農家に作付量を増やしてもらい、増産に踏み切る。また、姉妹品として「白いもアイス」を開発してポタージュスープと同時販売するなどした結果、6万2000袋を売り上げた。
「スープを開発したのは、白土ばれいしょを絶やさないためですが、発売後に土産物としてのニーズが高いことが分かりました。そこで『御牧ケ原』を商標登録して、白土ばれいしょ商品のシリーズ化や、飲食店などで提供する白土ばれいしょメニューの開発にも乗り出しました」
その結果、「御牧ケ原ニョッキ」「コもロッケ丼」など、さまざまな商品やメニューが誕生した。中には製造中止したものもあるが、地域の目玉商品となる新たな特産品の開発は続いている。
「もともと『御牧ケ原ポタージュスープ』の販売は営利目的ではないので、収支はトントンといったところですが、地域ブランドとして広く認知されるという狙いは果たされつつあります。今後は加工品だけでなく、原料自体にも注目してもらおうと、道の駅などでスープと白土ばれいしょのセット販売などを進めているところです」と語る宮坂さん。
地域産品でつくった商品が、15年にわたって市内外から支持されていることに底知れぬ力を感じた。
会社データ
社名:小諸商工会議所
所在地:長野県小諸市相生町3-3-12
電話:0267-22-3355
HP:https://www.kcci.komoro.org/
※月刊石垣2018年7月号に掲載された記事です。
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