コラム石垣 2014年6月11日号 宇津井輝史

経済規模の拡大は人々の生活を豊かにし続けた。人はすっかりそれに慣れきってしまった。人類の一人当たりGDPは西暦元年には400ドル。これが1000年続いた。600ドルになるのに800年を要した。急成長するのはそれ以後のことだ。20世紀末には6000ドル。飛躍的な成長を可能にしたのは、産業・エネルギー革命、科学的合理主義、資本市場の成立である。主導したのはヨーロッパだ。

▼地球上の陸地の6・8%、総人口の11%を占めるに過ぎないヨーロッパが永く世界をリードした。根底にあるのはローマ法とギリシャ古典哲学、そしてキリスト教である。これらの原理が三位一体となって西欧文明を形づくり、その価値観が世界を染め上げた。世界各国がこぞって目指した近代化とはそのまま西欧化を意味した。

▼光をともせば見えなかったものが見えてくるという啓蒙思想を生んだのもヨーロッパである。人間の質も向上し、理性によって戦争を防げると考えた。だが啓蒙思想は、第1次世界大戦という未曽有の戦争を防げなかったばかりか、理性がつくり上げた科学技術が兵器に応用され、戦争を一層悲惨なものにした。さらに戦後処理が次の世界大戦を用意した。もうこんなことはたくさんだ、戦争ができないメカニズムをつくろう、そんな思想から生まれたのが欧州共同体だ。初めは経済同盟だったECは、マーストリヒト条約以後、EUという政治同盟になった。

▼さまざまな言語、人種が混在する異文化の集合体。表面の統一とは裏腹に対立と矛盾を含む。先の欧州議会選で、EU懐疑派の政党が各国で躍進した。中露など国内に成長の余地が残る新興国に伍していくためのユーロ帝国への道はなお遠い。

(文章ラボ主宰・宇津井輝史)

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