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事例2 生徒と企業の両方を成長させる〝桑名方式〟

桑名商工会議所・サンジルシ醸造(三重県桑名市)

桑名市では桑名商工会議所がコーディネーターとなり、地元企業と高等学校をマッチングさせて2年生に職場体験をさせる「桑名方式のインターンシップ事業」が19年目を迎えた。人材採用を目的とした事業ではないが、多くの企業は職場体験によって自社に興味を持ってもらい就職につなげたいと考えている。

毎年10月には企業、学校、生徒、商工会議所が参加する「報告会」が行われ、生徒が感想を述べたり、企業や学校が本音で意見交換をする。それが「桑名方式」を育ててきた

学校が職場体験を商工会議所に依頼

平成8年12月10日、市の地域産業である鋳物企業のカネソウ、立松鋳造、辻内鋳物鉄工の3社で、三重県立桑名工業高校(桑工高)材料技術科2年生30人が1日職場体験学習をした。きっかけは桑工高から桑名商工会議所へ「鋳物工場を見学させ、授業内では教えることができない製造現場を肌で感じさせたい」という申し出があったためだ。

その背景には国や県の提言があった。例えば文部科学省「スペシャリストへの道-職業教育の活性化方策に関する調査研究会議(最終報告)-」(7年3月8日)では専門高校における企業・工場など現場での学習機会の拡充を提言した。また同省「今後の専門教育における在り方等について」(理科教育及び産業教育審議会答申、10年7月23日)では生徒が在学中に就業体験を行うインターンシップを奨励。専門高校における教育活動の一層の充実や生徒の勤労観・職業観の育成を求めた。また同時に桑工高側の事情としては入学者の定員割れが続いているといった危機感があった。

第1回「桑名工業高校産業現場実習」が一定の成果を残したことから、翌9年度は2年生全生徒124人が12企業で1日職場体験をした。初回は工場見学のレベルだったが、2回目は職場で汗を流す〝苦労体験〟となった。

そして10年度には文科省の「平成10年・11年度専門高校等と地域との連携推進事業」の研究指定となり2年生全生徒144人が49企業で5日間の産業現場実習を行った。これが桑名方式のインターンシップの始まりである。

商工会議所が受け入れ先を確保

桑名では、商工会議所の部会事業として職員と桑工高の教諭が共同で企画から実施までを行う。商工会議所は受け入れ企業の確保に加え、企業と学校のパイプ役も務めている。

「学校が直接150人前後の生徒のインターンシップ先を探すのは大変です。そこで当所が受け入れ企業を探し、学校は生徒に対してあいさつや身だしなみを初めとする社会常識を徹底的に指導しています。最近の生徒はまじめで作業には熱心に取り組むので企業からの評価も高いですね」と桑名商工会議所中小企業相談所の加藤喜代美さんは笑顔を見せる。

今年度は、2年生158人を75社が受け入れた。社会経験の浅い2年生が知っている企業の多くはテレビCMで見るような大企業ばかり。しかし、インターンシップを通じてCMに登場する商品の部品が、実は市内の中小企業で製造されていることを知る。それにより生徒が就職先の選択肢に地元の中小企業を入れてくれればいいのだが、現状はなかなか厳しい。なにしろ高校新卒者の求人倍率(厚生労働省調査26年7月末現在)は全国平均で1・28倍、三重県内は1・09倍のところ、桑工高には毎年3倍を超える求人があるのだ。

1年間の実習で人材育成

商工会議所ではインターンシップとは別に「デュアルシステム」(実務・教育連結型人材育成システム)に対する協力もしている。文科省はデュアルシステムを「若年者向けの実践的な教育・職業能力開発の仕組みとして、企業での実習と学校での講義などの教育を組み合わせて実施することにより若者を一人前の職業人に育てる仕組み」と位置付け、16年度より20地域25校でモデル事業としてスタートさせた。

桑名では商工会議所を中心として桑工高、企業が協力して地域産業を支える人材を育成。これにより産業と経済の発展を担うとともに、「ものづくり」の技術・技能を継承することを目的としている。

実際には、1年生の希望者が複数の職種業種を体験(目安は2社で5日間)して適性に合った職種を見極め、2年と3年の生徒が年間を通じて毎週1日、企業で実習を行う。昨年度は2年生3人、3年生14人が手を挙げたという。1年近く同じ企業に通い続ければ生徒にも自社意識が芽生えるし、入社後のミスマッチの心配もない。

インターンシップとデュアルシステムは生徒が参加して終わりではない。10月に報告会を行い生徒の感想文から成果を評価。さらに、商工会議所職員が中心となって企業、学校双方から本音の意見を聞き出す試みも続けている。翌年には合同発表会もある。こういった地道な取り組みが桑名方式に磨きを掛けている。

教える社員も成長できる

それでは受け入れ側の企業はインターンシップをどのように受け止めているのだろう。

みそやしょうゆを生産するサンジルシ醸造は19年から毎年3人の生徒を受け入れている。桑工高の生徒だけでなく、四日市農芸高校のインターンシップや市立陵成中学校の職場体験にも協力して県教育委員会から感謝状を授与されるなど受け入れに積極的だ。

「インターンシップに協力することで地域に貢献したいと考えています。そして、数年に一度の採用年にはインターンシップを受け入れた高校から優先的に人材を採用する方針です」と社長の佐藤強さん。

ちょうど今年、採用年で桑工高と農芸高校から1人ずつの計2人が入社した。ただ、インターンシップに来た生徒を採用した例はまだないという。しかし、佐藤さんは長期的な視点でインターンシップをこう評価する。

「家に帰って冷蔵庫を開けたら当社のみそやしょうゆが入っていたと教えてくれた生徒もいます。そんなふうに当社の製品に興味を持ちファンになっていただければいいのです」

インターンシップは毎年、1学期末の試験の後、夏休みに入る前というタイミングで実施される。サンジルシ醸造では初日に5日間の体験のガイダンスと、食品工場だからこその徹底した安全・衛生教育を事前に行う。

「製造現場には原料を処理して仕込む上工程と、仕込んだものをカップやボトルに詰める下工程があります。5日間で、その両方を体験します。この時期は仕込みの現場は大変ですよ。蔵を閉め切って火をたくので、常に室温は35度、湿度90%以上という厳しい環境です。みそにとっては最適な環境ですが人間には過酷です。また桑工高の生徒は設備の保全・修繕部門にも配属します。製造業にとって機械のメンテナンスはとても重要だからです」

そんな過酷な蔵の中でも生徒たちは生き生きと働いているという。「きっと現場に入って働くことの楽しさを実感してくれているのでしょうね」。

現場で教師役となるのは役職者ではなく、直接各工程に携わっている担当者だという。「彼らも教える面白さ・難しさを体験して良い刺激を受けています」と佐藤さんは話す。

そして最終日には体験の感想を聞く機会を設けている。

「わずか5日間の体験ですが、生徒の成長ぶりにはいつも驚かされます。初日は質問しても一言二言の返事があるだけですが、最終日は積極的に体験したことを話してくれるようになります」

醸造業界は競争が激しい。佐藤さんによると事業者数も減少傾向だという。ただこの競争を勝ち抜くためのヒントがこのインターンシップにあるかもしれないと期待を込める。

「その主な原因は不況と後継者不足です。でも醸造技術を生かして新しい分野に挑戦している企業は生き残っている。当社も創業210年を超える伝統の中で蓄積されてきた技術や保有する製法特許を生かして、アレルギー対応商品のような世の中が求めている新製品を開発していきたいと考えています。これまでは現場体験が主でしたが、今後は、新商品開発にも参加してもらうつもりです。ここに10代の若い感性を生かしてほしい。私たちでは思いつかなかった新商品が生まれるかもしれません。楽しみですね」

桑名方式のインターンシップ事業は生徒はもちろん、企業にも良い刺激を与えている。

会社データ

社名:サンジルシ醸造株式会社

住所:三重県桑名市明正通1-572-1

電話:0594-22-3333

代表者:佐藤 強 代表取締役社長

従業員:109人

※月刊石垣2015年8月号に掲載された記事です。

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