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テーマ別企業事例 人を呼び込む、まちがにぎわう「観光」が地方創生の原動力となる

全国各地で地域を活性化させる地方創生への取り組みが進んでいるなかで観光産業が注目を集めている。観光産業は裾野が広いため、その活性化は地域と中小企業の活性化に直結する。そこで今号は、新たな観光資源を掘り起こし、地域と地元中小企業をいかに元気にしていくべきかについてレポートする。

総論 ネットワーク構築で新たな魅力を発信

須田 寬氏/日本商工会議所 観光委員会共同委員長 名古屋商工会議所 文化・観光委員会委員長

日本商工会議所は5月13日、提言『国と地域の再生に向けた観光振興について』を発表した。この提言では観光を日本経済再生の原動力として位置付け、地方創生のために重点的に取り組む事項として、地域観光の核となる「交流拠点都市」(仮称)の構築による全国各地への旅行者の分散・拡大の推進などを提唱している。そこで、国と地域の再生において観光が担う役割と観光産業および各地域が取り組んでいくべき課題について、日本商工会議所・観光委員会共同委員長の須田寬さんに話を聞いた。

須田 寬氏 日本商工会議所 観光委員会共同委員長 名古屋商工会議所 文化・観光委員会委員長 昭和6年生まれ、京都市出身。29年に京都大学法学部を卒業後、日本国有鉄道(国鉄)に入社。国鉄分割後、62年に東海旅客鉄道株式会社(JR東海)初代代表取締役社長に就任した。その後、同社会長を経て現在は同社相談役。日本商工会議所・観光委員会共同委員長

交流人口の増加が地方を活性化する

――まず、観光がいかにして地方創生の原動力となるのかについて、どのように捉えていますか。

須田 地方創生というのは地方の経済を活性化することが一番のポイントです。観光によって交流人口が増えることで、定住人口が減少しつつある地方を再活性化することにつながると思います。そして観光産業を通じて地方にお金がまわる。観光は非常に大きな経済行動なのです。それによって地域社会・経済が活性化され、まちづくり、国づくりの基盤ができていく。しかも全国各地に観光産業は満遍なく存在しており、地方を活性化するにはまず観光からといっても過言ではありません。

――しかし近年、外国からの旅行客が増加している一方で、国内観光は伸び悩み、旅行者の行き先も大都市圏に集中していることから観光面での地域格差も出てきています。そこで、いかに旅行者を全国各地に分散・拡大させていくかが大きな課題となっていると思いますが、その点はどうですか。

須田 地元の観光資源は何なのかを各地域の人たちがもう一度しっかりと見つめ直す必要があります。でも、それがなかなか難しい。地元の人が思いもよらないことが他の地域の人から見たら観光資源になったりすることもありますから。

――そのような観光資源の具体例はありますか。

須田 中部地方にある周辺に何もない、いわゆる秘境駅ですが「何もない」ことがかえって評判を呼び、観光客が訪れるようになりました。地元の人は「何もないのに」と首をひねるが、それが都会の人には新鮮だったのです。だから、よその地域に観光で訪れ、そこで何が観光資源として活用されているのかを自分の目で見て、それを自分たちの地域に当てはめてみること。よそから来た人の目線に立って地元を見直してみることが重要なのです。これができれば、地元の観光資源というのは、どんどん出てくると思います。そのためには各地域同士の交流が大切です。日本全国に514ある商工会議所だからこそ、地域間の交流を促進させることができるのではないでしょうか。

〝仕掛人〟が必要

――新たな観光資源を掘り起こし、それを活用して国内外からの観光客を呼び込むためには、人材の育成も含めたさまざまな課題もあると思いますが、具体的には何が必要でしょうか。

須田 まず外国人観光客が増えて困っているのは、ガイドと通訳の不足です。外国人に対して、外国語で有料のガイドをするためには通訳案内士の資格が必要なのですが、地方には合格者の数が少ない。そこで一部の地域では、特区制度を活用して、特定エリアの業務だけに限定し、緩和された条件で通訳ガイドを認めるようになっています。これを他の地域でも進めていく必要があります。収入を得ないボランティアの場合は資格が不要なので、地元の人がボランティアとしてガイドをやっていくようにすることも、これからは重要になってくるでしょう。もう一つは、いわゆる観光仕掛人が足りないことだと思います。観光は良い仕掛人がいるかいないかで大きく違ってきます。仕掛人には学問的なことも含めて観光に関する幅広い知識が必要なのですが、観光教育の課程がまだ少なく、人材の育成にもあまりつながっていません。そのため、観光学の学術的な面と旅行業務取扱管理者の資格取得といった実務的な面を融和させた学問体系を確立させていくとともに、観光産業側もその卒業生を積極的に活用するなど、産学が連携していく必要があります。

地域間で連携しネットワークを構築する

――日本商工会議所の提言では、取り組むべき重要課題として「交流拠点都市」とそれを支点とした「観光ネットワーク」の構築が挙げられていますが、具体的にどのようにお考えですか。

須田 これは地域観光の核となる都市を国が10都市程度指定し、特区制度による特別措置の活用や税財政措置などで支援することで、そこを拠点として旅行者に周辺地域にも行ってもらおうというものです。交流拠点都市を支点として観光ネットワークを構築し、周りの地域と一緒に観光圏をつくっていくのです。その上で交流拠点都市と、その周囲にある観光地をライン状、三角形、円状に観光客が巡っていけるような観光ルートを開発していこうというものです。それだけではなく、その地域での観光消費額を拡大して地域経済の活性化を進めるためにも、観光関連産業そのものも意識改革してイノベーションを行っていかなければいけません。

――イノベーションといいますと。

須田 観光産業には老舗のお店が多く、旧態然とした経営を行っているところもまだ多いのです。インターネットを活用した宿泊予約やクレジットカードによる決済システムの導入、生産ラインの効率化など近代的な経営手法を導入していくことが必要です。多様化する旅行ニーズへの対応、労働生産性をいかにして向上させていくのかも今後ますます重要になってくるのです。

――地方の観光産業は中小企業が多く、独自にイノベーションを進めていくのは難しいのではないでしょうか。

須田 だからこそ商工会議所が指導や情報提供をしていき、業種を超えた他企業、他地域との連携を促進する橋渡しをしていく必要があります。商工会議所が持っている514のネットワークは得難いものです。隣接した地域間の連携が難しいところもありますが、観光というテーマでは、その壁を破らなければいけない。各商工会議所が自発的に他地域とネットワークを組んで日本の観光振興に向けて努力をしていくことが、地方創生にとって一番の原動力になるのです。この活動を活発にしていくためには日本商工会議所ももっと動いていかないといけないと思っています。

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