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テーマ別企業事例 人を呼び込む、まちがにぎわう「観光」が地方創生の原動力となる

事例4 熊野三山の観光客を市内へ誘客する秘策

熊野商工会議所(三重県熊野市)

三重県熊野市の観光面での強みは吉野熊野国立公園に指定された数多くの名勝や世界遺産登録された熊野古道など全国的な知名度を誇る観光資源を持つことである。鉄道を始めとする公共交通機関の整備は遅れているが、高速道路が全通したことで名古屋方面からの車でのアクセスが楽になり観光客数が大きく伸びている。この勢いを市内での消費拡大に結びつけることが課題となっている。

名勝鬼ヶ城に隣接し、熊野古道「松本峠」にも近い鬼ケ城センター。熊野市観光の情報発信基地でもある

参詣客を市内へ誘導

熊野古道とは熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社の熊野三山に詣(もう)でるための道。世界遺産として登録されている「紀伊山地の霊場と参詣道」を構成する参詣道の一つである。ただ熊野三山は和歌山県側にあり、また奈良県とも隣接していることから、「熊野三山へ参詣にみえた観光客を熊野市へ引き寄せる仕掛けが重要だ」と熊野商工会議所中小企業相談所長の齋藤公己さんは説明する。

その強力な「磁石」となるのが熊野古道と同時に世界遺産に登録された「熊野の鬼ケ城附獅子巖(おにがじょうつけたりししいわ)」である。「坂上田村麻呂の鬼退治伝説が残る鬼ヶ城や獅子の顔をした奇岩の獅子巖は熊野参詣道沿いにあり、江戸時代の文献にも登場しています。昭和10年に国の天然記念物と名勝に指定された人気の観光スポットです」(齋藤さん)。

平成25年8月、鬼ヶ城の隣地に観光情報発信機能を備え、レストラン、売店などを完備した鬼ケ城センター(熊野市ふるさと振興公社運営)がオープンした。大型観光バス用の駐車場もあり「熊野観光の玄関口」としての役割が期待されている。

三重県への入込客数も順調に伸びている。その中でも熊野市が含まれる東紀州エリアは26年に19万4100人を集客、対前年比107・2%となり、伸び率では北勢、中南勢、伊勢志摩、伊賀エリアを抑えてトップ。観光地点ごとの調査では熊野古道が42万8698人で対前年比139・0%と最も高い伸び率を示した。鬼ヶ城も28万512人が訪れ、同比122・4%を記録している。名古屋方面や伊勢市方面から東紀州へ向かう高速道路の伊勢自動車道と熊野尾鷲道路が26年3月30日までに全線開通し、名古屋-熊野間が3時間の日帰り圏になったことも大きな起爆剤となっている。

さらに県の協力を得た古道ウォーキングツアーも好評である。三重交通系の旅行会社観光販売システムズでは熊野古道シャトルバスと名付けた大型バスを利用した「日帰りウォーキングバスツアー」を土日祝日(6月〜9月、12月〜2月。他の月は毎日)に実施している。名古屋から高速道路を使って直行し松本峠-鬼ヶ城・浜街道コースなど古道11コースの入り口に停車することで人気を呼んでいる。料金も往復5000円と手頃だ。「世界遺産登録を機に設定したツアーです。ウォーキングブームもあってリピーターも多く毎年4400人前後のお客さまに利用していただいています」(観光販売システムズ)。

 来年のサミット(主要国首脳会議)開催地が伊勢・志摩に決定したことなども追い風となるが、課題も少なくない。市内には大型宿泊施設が無く、せっかく訪れた観光客を市内にとどめることが難しい。「そのため鳥羽や志摩に宿泊した人が高速道路を利用して車で熊野市まで来ていただけるような施策を考えています」(齋藤さん)

そのヒントとなるのが毎年8月17日に開催される「熊野大花火大会」と、今年の1月の開催で3回目を迎えた「熊野きのもと さんま祭り」である。花火大会は諸精霊供養のため始まったもので、300有余年の歴史と伝統を誇る。「高速開通記念花火」を打ち上げた25年には過去最高の20万人を集めた。市の人口約1万8000人の10倍以上だ。

花火の打ち上げ当日は、熊野市駅に近い「くまの三尺玉すとり〜と」(熊野市記念通り商店街の愛称)の店舗や屋台で、ご当地物産を販売するなど大会を盛り上げるイベントを実施している。さんま祭りは主催者でもある商工会議所周辺が会場となる。名産のさんま丸干し1000本を無料で配り、観光客自身に焼いて食べてもらう趣向だ。

また市はスポーツツーリズムの開催にも熱心だ。昨年度はスポーツ交流で延べ約3万人が市内に宿泊した。特にソフトボールのメッカとして全国的に有名で、毎年1〜3月は選手で市内が一杯になるほか、ラグビー、マリンスポーツなど恒例の大会だけでも11もある。

「このようなイベントを通じて熊野市を知っていただき誘客に結びつけたい」と齋藤さんは期待をかける。多くの観光客をひきつける熊野古道の拠点都市としての魅力をさまざまな角度からアピールする機会を増やしていくことで、その存在感を高める取り組みが功を奏している。

現在は台湾からのツアー客が主体

県では主に台湾、香港、タイ、マレーシアなどアジア圏からの個人旅行者の誘致促進を目指す「みえ外国人旅行者旅行券事業(3Eキャンペーン)」を6月1日からスタートさせた。国の交付金を活用して実施するもので、3Eキャンペーン対象宿泊施設の割引、対象施設で使用できる商品券の配布などを行う。

「現時点では市内の外国人観光客は台湾からのお客さまが圧倒的に多い印象です。今は添乗員付きツアーで観光スポットを回る形が主流なのですが、個人旅行者が増えてくればさらなる対応が必要になってきます。新たなチャンスを逃さないようにしたいですね」(齋藤さん)

世界遺産登録から昨年で10周年を迎え、観光地としての人気はますます高まっている。中小企業相談所長でもある齋藤さんは「市内に滞在する観光客が増えれば、ビジネスの幅が広がります。経営相談などを通じて手助けをしていきたい」と話す。事業者と商工会議所が知恵を出し合えば、ビジネスチャンスは必ずつかめるはずだ。

※月刊石垣2015年7月号に掲載された記事です。

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