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テーマ別企業事例 人を呼び込む、まちがにぎわう「観光」が地方創生の原動力となる

事例1 モノづくり産業と歴史を生かした「産業観光」を推進

北九州商工会議所(福岡県北九州市)

日本の近代化を支え、世界の環境首都を目指す「モノづくりのまち」北九州。北九州商工会議所では市内の工場や工場夜景、産業遺産を新しい観光資源として捉え、産業観光に積極的に取り組んでいる。その成果は昨年度の「全国商工会議所きらり輝き観光振興大賞」と「産業観光まちづくり大賞 金賞」(公益社団法人・日本観光振興協会主催)のダブル受賞となって表れた。

大きく掲げられた「1901」の文字は、ここ東田第一高炉に火入れが行われた年を示している。昭和47年までは操業していた。現在は北九州の文化財に指定されていて、高炉の炉前作業を再現した様子や、高炉の中を見学することができる

工業都市ならではの資源

「当初は、『産業観光』と説明しても『観光産業』の間違いでしょうなどと言われたものです」と、北九州商工会議所産業観光推進室室長の北野秀幸さんは振り返る。

明治34(1901)年に官営八幡製鉄所が創業した地・北九州市は、鉄鋼や機械、化学、電機などの国内主要産業が集まる地。日本の四大工業地帯の一角を担う工業都市として発展してきた。100年以上を経た今も、モノづくりのまちとして栄えている。

そうした歴史を背景に、同商工会議所は、新たな観光資源として、北九州ならではの「産業」に注目した。普段はなかなか目にすることのできない工場の内部や製造現場、歴史を刻んだレンガづくりの工場景観、夜を彩る工場群の夜景――。北九州ならではの「資源」を生かした「産業観光」に、同所が取り組み始めたのは、平成22年のこと。その12月には産業観光推進委員会を設置し、翌年には新たに産業観光推進室が立ち上がった。そこでは、工場見学受け入れ企業の開拓、産業観光ガイドの育成・活用、旅行代理店への販路の開拓などに取り組んだ。

こうした取り組みが結実。地元の協力企業も増え、「産業観光ツアー」「工場夜景クルージング」「環境修学旅行」などのコンテンツが固まっていった。さらには今年5月、ユニセフの諮問機関であるイコモスから「明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」を世界文化遺産に登録するよう勧告された。もちろんそこには、北九州の官営八幡製鉄所関連施設が含まれている。もし世界文化遺産登録が決定すれば、北九州商工会議所が進めてきた「産業観光」への強い追い風となることは間違いないだろう。

情報の一元管理を実現

昨年の7月、同商工会議所がリードして、行政、観光協会などと組んだワンストップ型の「北九州産業観光センター」がJR小倉駅前のビルに開設された。これにより、市内の観光情報が一元化され、管理・振興が一カ所で把握できる仕組みが実現した。

地元の旅行会社と組んで実施しているいわゆる着地型の「産業観光ツアー」も昨年の7月にスタートして以来、28回の実績を重ねている。「洞海(どうかい)湾クルージング、世界遺産候補、市場のセリ体験……毎回、単なる工場見学ではない味を加えながらツアー内容を考えています。企業の受け入れの都合で平日実施が多いのですが、回を追うごとに参加者も増え、定着しつつあります。3人のスタッフのうち、毎回誰かがツアーに同行し案内や参加者のニーズを調べるようにしています」。

今回、取材で同行させてもらったツアーには、23人の参加者が集まり、地元テレビ2局の取材も入っていた。市内から参加したという70代のご夫婦は、息子さんに代を譲り、2人でこのツアーに参加することを楽しみにしているという。「長いこと市内に住んでいても知らないところばかりで、勉強になります。8回目の参加ですが、単なる観光地巡りとは違う魅力がありますね」と奥さんが語ってくれた。

「ホームページや市の広報、地元の新聞などでしか告知できていませんが、マスコミの取材も増え、少しずつ市外や県外からの参加者も集まってきています。市外から出発して訪れていただくのではなく、小倉駅から出発する着地型のツアー、その定着を目指しています。また、夜景や『角打ち』と呼ばれる酒屋さんの立ち飲みも観光資源にすることで滞在型の観光客も増やしたいですね」と北野さんは笑顔を見せる。

世界遺産候補の一つ、官営八幡製鉄所の旧本事務所(内部は非公開)は、見学デッキも整備され、観光客を迎える準備が整いつつある。近くにある東田第一高炉は明治34(1901)年、火入れがされた近代高炉で、完全な形で保存されている世界でも希少な施設。鉄鋼生産の中心を担った東田第一高炉だが、生産拠点が戸畑地区に移ったことなどで、その役目を終えた。一時は、老朽化のため、取り壊しも計画されていたが、多くの市民の要望でモニュメントとして残され、製鉄のまち・北九州の歴史を伝える資料が展示されている。

小倉駅前を東京のバス発着所のようにしたい

大正12(1923)年、アインシュタインは北九州の門司を訪れている。日本に向かう船上でノーベル物理学賞受賞の知らせが届き、日本では凱旋帰国のようなにぎわいだったという。そのアインシュタインが門司を見て、日本の近代化の速さと素晴らしさに目を見はったと伝えられている。明治維新からわずかの間に、列強と肩を並べるほどの近代化を推し進めた原動力は、ここ北九州に確かな足跡を残している。

7月上旬に決定される(※)世界遺産登録をきっかけに他地域との連携もはかられるだろう。それによって北九州にもたくさんの人がやってくるはずだ。ただ、こうしたビッグニュースが流れる前からずっと、定住人口が減少する中、どうにかすれば交流人口を増やすことができるはずだと取り組んできたのが「産業観光」だった。

「知的好奇心を満たす旅として人気が高まっています。また、地元の大学と組んで、他県から来た1、2年生の工場見学なども企画し、北九州の産業の魅力も伝えています。地元の産業を元気にし、地域を活性化させることだったら、何でも考えていきます」 こう熱く語る北野さんの夢は、「小倉駅前が東京のはとバスツアー発着所のようなにぎわいを見せてくれること」だという。

(※)5月22日取材

※月刊石垣2015年7月号に掲載された記事です。

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