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真壁昭夫の経済底流を読み解く 世界的に高まる政治リスク

最近、政治リスクが世界的に高まっている。ブラジルやベネズエラの政治的混乱、米国の大統領選挙の行方や英国EU離脱など政治的に不安定な要素は枚挙にいとまがない。米国の大統領候補であるトランプ氏の発言は気になる。同氏の発言は基本的に、「アメリカ・ファースト(米国の事情が最優先)」が中心で内向き志向が強い。海外からの輸入品に高関税を課すことで、米国内の労働者を保護すると主張する。

米国企業が海外で生産した製品を米国に持ち帰ってくる場合、高関税が課されるとなると、米国の消費者はその分の関税を負担することになる。米国企業としても、海外の安価な労働力というメリットを放棄せざるを得ない。それは米国経済にとっても大きなマイナスだ。米国ほど大規模な経済になると、経済を巡る要素は複雑に絡みあい、同氏が想定するほど簡単ではない。

米国を始め世界の主要国が自国の利益ばかり追い求めると、さまざまな問題を巡って国際協調体制をつくることが難しくなる。その結果、主要国が協力して世界的な問題に対処することができなくなる。それは、世界の政治・経済にとって大きなマイナス要因だ。米国の友人の一人は、「トランプ氏は稀代のポピュリスト(大衆迎合主義者)で、複雑な経済運営を行う能力があるとは思えない」と厳しく批判していた。ポピュリズム政治により聞こえのいい主張が繰り返されることで、多くの人は、少なくとも短期的に希望を持つことができる。しかし、それで本当に国民が幸福になれるわけではない。政策の効果が持続して経済全体が活性化されなければ、国民が抱いた希望は必然的に失望へと変化する。国民がポピュリズムに酔いしれると、過去の歴史の中でもかなり悲惨な状況になることが多い。

かつてギリシャはEUに加盟したことで、借り入れコストが大きく低下した。それに飛びついた当時のギリシャ政府は、典型的なポピュリズム政策を実施。公務員を増やし失業者を減らした。また年金制度を改正して、55歳の選択定年、しかも年金代替率90%以上(年金給付が勤務時の給与の90%を超える)という、手厚い仕組みをつくった。問題は、その財源が借金(国債)の発行によって賄われていたことだ。

その仕組みが続くと、国債発行残高の増加は避けられない。やがてギリシャの国債発行は限界点に至り、国債を返済できなくなった。そこからギリシャ危機が始まる。ギリシャは、IMFやEU諸国からの援助によって財政を切り盛りする一方、厳しい財政再建策の実行をのまざるを得なくなった。それは、多くの国民に大きな痛手を与えた。

アルゼンチンなどの南米諸国の中にも、ポピュリズム政治の失敗によって国民に塗炭の苦しみが及んだケースは見られる。政治家が政治家でいるためには、国民から支持を受け選挙で当選しなければならない。激しい選挙戦に勝ち抜くために、美辞麗句を並べ立てていることはあるだろう。しかし、実現可能性の低い政策などを吹聴したところで、本当の意味で国民に幸福をもたらすことはできない。〝真の政治家〟は、短期的には痛みを伴う政策でも、国民に対して長期的により大きな幸福をもたらすことを理念とすべきだ。

人間は短期的なメリットに目を奪われ、長期的なプラスに目がいかないことが多い。行動経済学では、そうした人間の特性を〝マイオピック・ロス・アバージョン(近視眼的損失回避)〟と呼ぶ。政治は、人々を正しい方向に誘導する機能を持つことが必要だ。安倍首相が第二次政権をつくってから、既に3年余りの時が流れた。その間、黒田日銀総裁の積極的な金融政策によって、円安を加速し、株価の押し上げに成功した。しかし、肝心要の3本目の矢(成長戦略)が本格的に飛んでいない。今こそ、政府は規制緩和などを積極的に推進し、官民挙げてAI(人工知能)やフィンテックなど新しい産業分野を育成する政策を実施すべきだ。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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