先月末、スイスのダボスに各国のリーダーが集結し、世界が直面する課題について、白熱した討議が行われた。会議では、第四次産業革命が進展する中で、IT企業の頭文字をとったFAMGAと呼ばれる一握りの企業が市場を独占している現状を憂慮する発言が相次いだ。
▼これらの企業は、ネット上で個人がどのサイトを訪問したのかの情報を収集し、また、スマートフォンの位置情報から個人が今どこにいるのかを特定する。さらに、その人が次に何を購入するのかを予測し、関心のありそうな情報を提供することで、企業が想定した通りの購入に結び付ける。こうした戦略を意のままにできる優位性は、計り知れない。事実、FAMGAは、既に市場での決定的な支配力を握っており、中でも、E‐コマースでのアマゾンの独占的な立場を切り崩すことは、もはや困難な状況だ。
▼この状況を目の当たりにして、デジタル時代の経済のありように人々は疑念を抱き始めている。個人情報が知らないうちに利用され、市場はIT企業の勝ち組に独り占めされる。このままでは市場から競争がなくなるのではないか。
▼こうした懸念を払しょくするには、デジタル時代の市場ルールを各国が協議して取り決めることが重要だ。だが、自由な市場経済のリーダーであった米国は、アメリカ第一主義を掲げ、残念なことに世界の調整役としての役割を放棄している。他方、政治基盤が弱体化しているEU各国は、世界経済に関与する余裕を失っている。市場の競争ルールの道筋をつける国家や組織が不在であることのリスクは高い。ここは官民の枠を超えて、デジタル時代の市場統治についての本格的な議論を一刻も早く始める必要がある。
(神田玲子・NIRA総合研究開発機構理事)
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