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こうしてヒット商品は生まれた! 「HAKASE」ブランド

軸材に本べっ甲を使った、気品と風格あふれる一品。ペン先や軸に使う材料、仕上げなど、仕様によってグレードが分かれており、価格も細かく設定されている

鳥取市の目抜き通りにある万年筆の製造販売会社、万年筆博士。同社では、使い手に合わせて1本1本手づくりする万年筆を主力としているが、その品質の高さが口コミで広がってじわじわとファンを増やし、今では国内外を問わず注文が舞い込むほどの人気を博している。一時はボールペンに取って代わられた万年筆を、よみがえらせた道のりをたどる。

書き方や癖に合わせて完全カスタムメード

万年筆は、かつて大人のステータスを表すアイテムの一つだった。進学や就職祝いの定番だった時代もある。ところがいつしか手軽なボールペンやシャープペンシルに取って代わられ、見掛ける機会は急速に減っていった。

そうした時代の流れにあらがい、独自の万年筆づくりで着実にファンを獲得していったのが万年筆博士だ。同社がつくる「HAKASE」ブランドの特徴は、完全カスタムメードである点だ。独自に開発したカルテで、利き手、握る指の位置、ペンの角度や傾斜、進入角度、筆圧、筆速などを細かくチェックし、それを基に長さや重心の位置などを割り出して、形状を決めていく。軸には耐久性にすぐれた銘木を、金具類には14金無垢の素材を用いて、1本1本手づくりしたオンリーワン商品だ。

「1本につき300~500の工程があり、時間にして10~50時間かかります。そこに漆塗りを施すと、さらに2カ月を要します。ペン先もその人の使い方に合わせて研ぎ上げるので、受注から完成までかなり時間をいただきますが、その分、満足していただいています」と同社社長で職人でもある山本竜さんは説明する。

業界の常識を破る前代未聞の製作工程ゆえに、究極の道具を求める人の間で高く評価され、国内外から注文が舞い込んでいる。累計販売本数は1万本を突破し、現在、完成まで約16カ月待ちという人気ぶりだ。

1本も1000本もつくるコストはほとんど同じ

同社は、山本さんの祖父である山本義雄さんが昭和20年に創業した。腕のいい職人を抱え、家内制手工業で万年筆をつくっていたが、やがて大手メーカーによる大量生産・大量販売時代が到来する。それに伴い、製造販売から仕入れ販売へと移行し、万年筆のほか喫煙具、紳士用小物、印鑑なども扱うようになった。しかし、40年代に入ると筆記具が多様化し、万年筆そのものが売れなくなったことで、同社の経営は苦戦を強いられた。「このまま潰れてしまうなら、最後にチャレンジをしよう」と、カスタムメード万年筆にかじを切ったのは、二代目社長の山本雅明さんだ。きっかけは、大手メーカーから聞いたエピソードだった。

ある小説家が賞を受賞した際、贈り物として出版社に万年筆を希望した。それは書き味、握りの太さ、長さ、重さ、バランス、デザインを細かく指定したものだった。依頼を受けたメーカーは、御用聞きをしながら試作し、試してもらうために小説家のもとへ何度も新幹線で往復した。その結果、1本の万年筆をつくるのに1000万円以上のコストが掛かったという。

「大手メーカーは、一つのモデルを何百何千とつくるのは得意です。しかし、原材料費を除けば、1本も1000本もつくるコストはそう変わりません。ならば当社は零細の強みを生かし、使う人に合わせた万年筆を1本1本つくっていくことにしたんです」

その手始めに考案したのが、世界初の“書き癖診断カルテ”だ。そこに記入してもらうことで書き癖を見極め、長さや太さ、バランスを決めていくのだ。さらに、同社がかつて使っていたほこりだらけの機械や道具を修理復活させたほか、各パーツに使う材料を手に入れ、ペン先から軸まで一貫して製作できるシステムを構築した。

万年筆愛好家が集う専門サイトで高い評価

当初は宣伝する資金もなく、店頭に張り紙をしていたが、それを見て入ってくる客はほとんどなかった。そこで定期的にデパートの催事に出店し、実演販売を行いながら認知度アップに努めた。すると珍しさから、新聞や雑誌が取り上げてくれるようになり、徐々にファンを獲得していった。一定の手応えを得た平成7年、催事販売をやめて、万年筆交流会というイベントを開始する。そこには、メンテナンスや修理依頼の既存客、注文に来た新規客など、さまざまな万年筆ファンが集まり、顧客拡大の場となった。

「私が8年に入社したころは、カスタムメード万年筆とそれ以外の売り上げは半々くらいでしたが、徐々に喫煙具や小物などの取り扱いをやめて、万年筆に特化していきました。ペンや軸に使う素材も少しずつ増やし、古いろくろやその他の特殊な製造道具を最先端技術で進化させて、より使い手にフィットする万年筆をつくる態勢を整えていきました」

そうした努力の末、今では売り上げの9割がカスタムメード品となり、確実にファンをつかんだ同社だが、その半数は海外からの客だ。実は世界中の万年筆愛好家が集う専門サイトがあり、そこで同社は「大手メーカー品と同じ価格で、本物の素材を使ったオンリーワン万年筆をつくってくれる」とすこぶる評価が高いのだ。その口コミを見て海外からの問い合わせが増えており、わざわざ鳥取まで注文に来るファンもいるのだという。

「万年筆屋の三代目として、また職人として、100年家宝にしたいという期待を裏切らないものづくりをしていきたい。それには何よりも職人の育成が急務だと思っています。必要な技術を盗み、体で覚え、お客さまに思いやりを込めて万年筆をつくれるようになるには時間が掛かります。そうした人材を育成して、さらに多くのニーズに応えていきたいですね」と意気込みを熱く語った。

会社データ

社名:有限会社万年筆博士

所在地:鳥取県鳥取市栄町605

HP:https://fp-hakase.com/

代表者;山本竜 社長

設立:昭和21年

従業員:3人

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