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まちの解体新書 多面的な魅力を持つ大隅半島の中心都市

鹿屋オリジナルの品種「プリンセスかのや」 写真提供:鹿屋市、鹿屋市観光協会、鹿屋商工会議所

豊かな自然に恵まれ農業・畜産業・水産業が盛ん

現在の鹿屋(かのや)市は、平成18(2006)年1月に旧鹿屋市、旧輝北(きほく)町、旧串良(くしら)町、旧吾平(あいら)町の1市3町が合併して誕生した。九州南部にある大隅半島のほぼ中央に位置し、東西約20㎞、南北約41㎞に及ぶ、人口10万人ほどの大隅地域の交通・産業・経済・文化の拠点都市である。鹿児島県の県庁所在地である鹿児島市までは、桜島フェリーを経由して車で約1時間15分、空の玄関口である鹿児島空港までは車で約1時間10分の距離だ。

同市の北部には高隈(たかくま)山系が連なり、南部は肝属(きもつき)山地などの山林地帯となっている。両山地の間には、笠野原台地など、火山噴出物により形成されたシラス台地や、肝属川により形づくられた肝属平野が広がる。西部は錦江湾に面しており、海岸線が続いている。年間の平均気温は約17℃で、温暖な気候と豊かな自然風土に恵まれ、農業や畜産業、水産業が盛んだ。食料自給率は100%を超える。黒豚や地鶏、サツマイモ、落花生、カンパチなどが特産品である。

鹿屋商工会議所 会頭 坪水 徳郎 氏

拠点施設をつくり中心市街地の活性化図る

同市の中心市街地には、広大な敷地を誇る複合施設が立地している。19(2007)年にオープンした「リナシティかのや」だ。大型スーパーをはじめ、地元の産品を扱う専門店や映画館、多数のトレーニング機器を利用できるジム、焼き窯(がま)を併設する工芸アトリエ、茶室など、あらゆる分野の設備がそろう。同施設は、中心市街地のにぎわいを取り戻すために、市民や行政、商工会議所などが協力してつくりあげたものだ。

同市の中心市街地は、かつて営業していた百貨店が6(1994)年に閉店し、さらに郊外への大型店舗の進出などにより空洞化が進んでいた。そのような状況を打破し、「地域経済活性化の拠点」「芸術・文化・学習振興拠点」「総合的な福祉拠点」とするために同施設が完成した。

同施設は、「地域経済活性化の拠点」として、地域の人材・素材を生かす「内発型産業構造」の地域づくりを目指すことから、地場産業と連携した特色ある商業の展開を図っている。地域住民を主な対象としつつ、観光客なども呼び込むことを狙い、大隅半島の農畜産物や海産物など、質の高い食材を提供するマーケットゾーンの整備を行っている。また、「芸術・文化・学習振興拠点」とするために、音楽や演劇、講演など多様な用途に利用でき、市民が気軽に音楽演奏などの練習もできる多目的ホールを備えるとともに、美術展の開催や、市民の作品の発表の場となるギャラリーを有している。さらに、「総合的な福祉拠点」を目指し、高齢者支援室や相談室、高齢者用の浴室なども備えている。

多様な機能を持ち、「生活庭園」をコンセプトとする同施設は、地域の特徴を生かした、周辺環境と融合した空間づくりを目指している。同施設には、すぐ隣を流れる肝属川の水辺景観を生かした屋外テラスが設置されている。また、旧市役所跡につくられた「イベント広場」と同施設は、肝属川にかかる橋で結ばれている。さらに同施設の2層にわたる吹き抜け空間「ガレリア」は、既存商店街と同施設の間の歩行者の往来を促すことを目的としている。

同施設の約7割の面積を占める公益施設を管理している株式会社まちづくり鹿屋の神田郁哉専務取締役は、「当社は毎年黒字経営を行っている。投資的事業は行っていないが、公益施設の利用者数は毎年延べ30万人前後を維持している」と語る。「課題は、リナシティかのやの利用者が、想定していたようには近隣の既存商店街を訪れていないことだ。地域の皆さまのお力も借りつつ、課題解決に取り組んでいきたい」

中心市街地に位置する「リナシティかのや」。あらゆる分野の設備がそろう

日本最大級のバラ園と自衛隊史料館

同市を訪れる観光客の多くが訪問する施設がある。「かのやばら園」と「海上自衛隊鹿屋航空基地史料館」だ。

同市はバラを地域資源として活用しており、その中心的な役割を担う施設が「かのやばら園」だ。8haの広大な敷地に約3万5千株のバラが植えられている日本最大級の規模を誇るバラ園で、春と秋にバラの見頃を迎える。同市の温暖な気候により、春の開花シーズンには全国に先駆けて毎年5月のゴールデンウイークごろに満開を迎えるため、九州各県をはじめ全国各地から観光客が訪れる。

同施設では、季節ごとにさまざまなイベントを開催している。毎年春と秋の開花に合わせて「ばらまつり」を開催するとともに、6月と12月には、イルミネーションや花火、ダンスショーなどを楽しめるイベント「ファンタジーナイト」を行っている。

同施設は、来園者をより増やすために、イベントの開催などに加えて新しい取り組みも行っている。「バラが満開になる春と秋以外の季節も含め、1年中楽しめるような施設にしたい。そのため、バラと開花の時期が異なるチューリップやひまわりを植えるなどの取り組みを行っている。また、コスモスを育て、上から見るとバラの形になるように剪定(せんてい)するなどの試みも行っている」と、同施設を管理している霧島ヶ丘公園管理事務所の瀬貫浩昭所長は語る。

一方、「海上自衛隊鹿屋航空基地史料館」は、自衛隊が運営している史料館だ。かつての鹿屋海軍航空基地の敷地に建てられており、昭和11(1936)年に鹿屋海軍航空隊が開隊して以来、現在に至るまでの豊富な史料が展示されている。

第二次世界大戦末期には、鹿屋海軍航空基地から908人の特別攻撃隊(特攻隊)の隊員が出撃した経緯があるため、同施設には特攻隊員が家族に宛てて書いた手紙や特攻隊員の写真、遺留品などが展示されている。10代後半から20代前半の若い隊員が出撃直前に書いた手紙を読むと、第二次世界大戦当時の特殊な社会の雰囲気や、家族を残して出撃することの無念さがしのばれる。また、同史料館には、特攻にも使用された「零式艦上戦闘機五二型」、いわゆるゼロ戦などの航空機も展示されている。驚くことに、同史料館のゼロ戦は機体に自由に触れることができるため、軽量化のために布が張られた主翼などを直接触って確かめられる。さらに、戦争当時の史料だけでなく、近年の自衛隊に関する展示もある。自衛隊が実際に海上救助などに使用したヘリコプターに乗り込むこともでき、子どもたちにも人気である。

日本最大級の規模を誇る「かのやばら園」

豊富な地元の特産品を域外へ売り込み

同市では温暖な気候を生かし農業や畜産業、水産業が盛んである。そのため、地元の豊富な産品の販路開拓を支援するため、鹿屋商工会議所は商談会の開催や、他団体が主催する商談会・展示会・セミナーに関する情報発信などを行っている。そのような取り組みの一環として、「まるごと‶おおすみ〟アグリ・フード商談会」を毎年開催している。「この商談会を通じて、鹿屋・大隅地域の魅力ある食材を多くの方々にアピールする機会をつくり出すとともに、出展者のさらなる販路拡大・販売促進を支援したい」と同所の坪水徳郎会頭は話す。

平成22(2010)年に開始した同商談会は、関東や関西、福岡、鹿児島県内などから食品関連バイヤーを招いている。本年の第7回商談会では、出展者として地元の事業者など42社、バイヤーとして百貨店やスーパーなど28社が参加し、219件の商談が行われた。「商談会に全く出展したことがない地元の事業者も多い。そのため、出展者に対して、バイヤーとの対応方法などについても事前に説明している」(坪水会頭)

また、盛んな農業や畜産業、水産業を生かし、東京の飲食店経営企業、国内唯一の国立体育大学、そして鹿屋市による産学官連携プロジェクトとして、「鹿屋アスリート食堂」を展開している。同食堂では、アスリートのライフスタイルをヒントに、同体育大学のスポーツ栄養学の講師と民間企業の管理栄養士の指導の下につくりあげられた健康的でバランスの取れた食事を提供する。現在、同市内に1店舗、東京都内に4店舗、大阪市内に1店舗を構えている。

バランスの良い食事を提供する「鹿屋アスリート食堂」

交通インフラの整備がカギを握る

現在、同市には鉄道が通っておらず、地元の住民は交通手段としてもっぱら車を利用している。観光客も、同市を訪れるためには自分で車を運転するか、バスなどを利用する必要がある。地元住民と観光客の双方にとって、同市周辺道路の整備状況は利便性を大きく左右する要素だ。そのため、同所では主要な道路の整備促進について国などに対して意見・要望を行っている。

「東九州自動車道の整備が進んでおり、福岡県から宮崎県まで高速道路が直結しているが、鹿児島県と宮崎県の間で一部区間が開通していない。整備促進を図ってほしい」と坪水会頭は訴える。「鹿屋市の観光振興を考えると、東九州自動車道の整備に加え、薩摩半島と大隅半島が錦江湾で分断されている状況を改善する必要がある。観光客の多くは、鹿児島市がある薩摩半島だけを訪れる。なぜなら、薩摩半島から大隅半島に車で来るには、錦江湾を迂回(うかい)するか、フェリーに乗る必要があるからだ。両半島を道路でつなげることができれば、より多くの観光客が大隅半島を訪れるだろう」

昭和62(1987)年に廃線となった旧国鉄大隅線の歴史を今に伝える「鹿屋市鉄道記念館」

行政と民間が連携したまちづくり

まちづくりを効果的に推進するには、行政と民間の連携が不可欠である。同市では、民間が中心となって、中心市街地の将来構想である「鹿屋市まちなか再生基本戦略」を昨年度に作成した。本年度からは、行政や商工会議所を含む民間が同基本戦略の実行に向けて行動を起こしていく。

「歩きたくなるような中心市街地をつくりたい。行政としては、新規店舗に対しては創業支援をする。既存の店舗については、情報を積極的に発信していきたい。既存店舗にも、魅力的なお店がたくさんある。また、まちづくりにおいては、民間とも連携していきたい。特に商工会議所とは、何でも言い合えるような関係を構築し、ネットワークをより強めたい」と鹿屋市の担当者は説明する。

同所の坪水会頭は、同市の魅力は「自然が豊かで住みやすいところ」であるという。山でトレッキングができる一方で、海で釣りも楽しめる。おいしい黒豚や地鶏に加え、海の幸も手に入る。「魅力あふれる鹿屋市の発展に向けて、今後とも貢献していきたい」(坪水会頭)

レトロな雰囲気で昔ながらのお店や個性的なお店が並ぶ味わいのある通り「京町」

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