事例2 多面的な連携から始まる新しいにぎわい
山口商工会議所(山口県山口市)
〝まちなか〟に再び活気を取り戻し、10年後も20年後も安心して暮らせるまちづくりを幅広くサポートしている山口商工会議所。商店街やまちづくり会社、市民などと連携してきたさまざまな取り組みにより、まちの表情はどのように変わったのか。
郊外大型店の出店で商店街の集客力が低下
今年の大河ドラマ「花燃ゆ」の舞台として注目の集まる山口県。そのほぼ中央に位置する山口市は、政治・行政・文化の中心を担う。しかし、中心市街地は主要幹線である山陽本線沿線にはなく、決してアクセスのいい場所とはいえない。しかも、下関市、宇部市、岩国市など都市ごとに経済圏が発達し、住民が行き来する機会も多くない。そうした背景から、中心市街地の商業は地元密着型で発展してきた。
そのにぎわいに陰りが見え始めたのは約20年前。郊外大型店が出店したことで商店街の集客力が低下し、後継者不足も重なって閉店する店が目につくようになった。
「山口は〝衣(ころも)のまち〟。商店街には、呉服や衣料、時計や宝飾など買い回り品を扱う店が多く、食料品や日用品を扱う店が少ない傾向にありました。そのため普段の買い物客は郊外大型店にとられ、ますます食料品・日用品の店が減少。客足が遠のくという悪循環に陥ってしまったのです。今後の人口減少や少子化、高齢化を思えば、歩ける範囲で便利に暮らせることが望ましい。そこでまちなかに活気を取り戻すため、商店街やまちづくり会社などとの連携をはじめました」と山口商工会議所企画推進部部長の田村弘紀さんは発端を語る。
七つの商店街が大型イベントを企画
まず行ったのは、商店街一帯を会場にしたイベントづくりだ。同市では、十字に交わる駅通りとアーケード通りに七つの商店街が共存している。しかし、それまで地元百貨店を含めて大規模なイベントをするということがなかった。そこで新たな試みとして、商店街同士が共同したイベントを企画。同市とゆかりのあるスペインをテーマに「山口スペイン祭り(現HOLA!やまぐちスペインフィエスタ)」を平成18年より開催している。その盛り上げにひと役買っているのが若手後継者たちだ。
「以前、商店街の若手たちはほとんど交流がない状態でした。次世代を担う者同士がそれではまずいと、当所が音頭をとって交流会を企画したんです。回を重ねるごとに皆打ち解けて、『ただ飲むだけじゃもったいない。みんなで何かやろうよ』という流れになりました」と同所経営指導員の田中保さんは振り返る。
この20~30代を中心とする若手後継者の会『サークル・セブン』は、「山口スペイン祭り」の一企画として、ハロウィン仮装パレードやコンテストを開催。そのほかにも、小学生を対象とした「職場体験」を実施するなど、商店街の枠を越えたバリエーションに富んだ企画で、多くの人が商店街に集まる機会を生み出している。
空き店舗情報を一元化しワンストップでサポート
並行して力を入れたのが、空き店舗対策である。以前から取り組んではいたが、平成23年に空き店舗率が過去最高の16・8%まで上昇したのを機にやり方を見直し、情報を一元化。タウンマネジャーと連携して、商店街に出店したい人と店舗を貸したい人をスムーズにマッチングする仕組みを構築した。
「出店希望者は、最初どこに相談したらいいか分かりません。そこで、どこに相談に訪れても、山口まちなかサポートセンターにつなぐ仕組みをつくりました。ここで面談し、出店プランを考慮した上で希望者に合った店舗を紹介。その後も契約や補助金の申請までワンストップでサポートします。そうすることで出店までの時間が短縮され、テナントミックスにもつながっています」とタウンマネジャーの有田實(みのる)さんは説明する。中心市街地活性化基本計画の下、商店街の東西の要所に大型マーケットが整備された効果と相まって、カフェや飲食店、アートスペースやネイルサロン、フィットネスクラブなどそれまで商店街にはなかった業種の出店が進み、空き店舗率は13・6%に減少した。
「商店街の活気は確実に戻ってきています。ただ、中心市街地全体を活性化するとなれば、環境や交通、住宅整備など他のさまざまな要素も関わってきますし、商業者だけではできないこともたくさんあります。今後はもっと官民の連携を密にして、継続的に取り組んでいきたいですね」と有田さんは語る。
ネットを使った新たなコミュニケーション
一方、中心市街地の現状や、活性化への取り組みを広く地域の人に知ってもらう活動を展開しているのが、商工会議所などが出資して立ち上げた「街づくり山口」だ。もともと同社は商店街の駐車場共通サービス券事業や特産品ショップの管理を行ってきたが、現在では「山口街中」という商店街情報サイトの情報発信支援やイベント販促企画業務も担っている。
同社の商店街にぎわい創出事業担当の宮野孝夫さんは「このサイトはショップやグルメ、イベントや観光など、幅広い情報を発信していますが、同時にFacebookも活用してまちの表情を毎日写真付きで紹介しています。日々商店街を歩き回りながら地域の人と交流したり、『私も何かやりたい』という大学生とともに活動していると、新たなコミュニケーションが生まれてくるのを肌で感じます」と手ごたえを感じている。新たなにぎわい誕生が楽しみだ。
※月刊石垣2015年3月号に掲載された記事です。
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