マイアミ・マーリンズのイチロー選手が、また一つ偉大な記録を更新した。ピート・ローズ氏の持つメジャー歴代最多安打4256本を抜いたのだ。
現地6月15日のパドレス戦。この時点でイチローは、ローズの記録にあと1本と迫る4255本のヒットを打っていた。1番ライトで先発出場したイチローは、いきなり第1打席で内野安打を放つ。低めのツーシームを打った打球は、キャッチャー前のゴロに。1塁側に転がった緩いゴロをキャッチャーが追いかけるように捕って1塁に投げたが、俊足のイチローは、もうすでに1塁ベースを駆け抜けていた。これでローズに並ぶ4256本。しかし1塁ベースに立ったイチローは、うっすらと苦笑いするだけだった。足で稼いだヒット。これもイチローらしさのよく出た出塁だったが、記念すべきヒットは、もう少し良い当たりをイメージしていたのかもしれない。
偉大な記録に追いつくや否やイチローは、すぐさまローズを抜き去っていく。迎えた第5打席。高めのチェンジアップをとらえた打球は、鋭いライナーでライト線に飛ぶ。2塁ベースにスライディングすることもなく、楽々たどり着くスタンドアップ・ダブル。この2塁打が日米通算4257本目のヒット。イチローはこのときばかりは、ヘルメットを脱いでスタンドからの拍手に応えたが、短く刈った髪の毛には、ここまでの長い戦いを物語るかのように白いものが混ざっていた。
イチローのすごさを何で語るか。挙げればきりがないほどの魅力にあふれているが、ここで考えたいのは自分の持ち味を最大限生かすスタイルの構築だ。タイ記録は、思わず苦笑いを浮かべた内野安打だったが、このゴロ安打が、イチローを象徴する当たりと言ってもいいだろう。イチローが画期的なのは、ゴロを打つことで、これをヒットにする技術を持っていることだ。いや、自分の特長を生かして、そこに生きる道を見出した発想そのものの勝利だ。フライでは、捕られたらアウト。それでは足が生かせない。とにかくゴロを打つ。それも内野手が左右に動いて捕らなければいけない打球ならば、1塁が常にクロスプレーになる。
華やかなホームランを狙わずに、ヒットで出塁することに徹する。それは、「虚」を捨てて「実」を取る、プロフェッショナリズムだ。
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