将棋界が騒然としている。弱冠14歳の少年が棋界の実力者・羽生善治三冠(王位、王座、棋聖)に勝ったからだ。学生服で対局に臨んだ挑戦者は少年の風貌をたたえていたが、子ども扱いしたら痛い目に遭う。非公式戦とはいえ羽生三冠を破った藤井聡太棋士は、中学3年生にして四段、2016年10月に史上最年少(14歳2カ月)でプロ入りを果たした棋士なのだ。デビュー以来、公式戦も無傷の19連勝(5月25日現在)と負け知らずの快進撃を続けている。
インターネット「AbemaTV」が企画した「藤井聡太四段・炎の七番勝負・第7局」で羽生三冠に勝った藤井四段は、並み居る先輩プロを倒し続け、通算6勝1敗で七番勝負を終えた。羽生三冠は、「すごい人が現れた」とその実力を素直に評価し、藤井四段は、「とても楽しい時間であっという間でした。僕の立場で羽生先生と対局できるのはめったにない機会。ありがたいと同時に緊張もありました」と謙虚に語った。
愛知県瀬戸市出身、将棋を始めたのは5歳だった。幼稚園の時に祖母が相手をしてくれたそうだが、その祖母は「銀」を横に動かす(本来、銀は横に動けない)ほどの腕前だという。趣味は詰将棋。小学生時代からあらゆる局面にチャレンジし、難解な詰めを読んできた。小学校6年生の時には、プロも参加した「詰将棋解答選手権」で初の小学生チャンピオンになっている。鋭い読みと終盤の集中力は、高度な詰めを読み切ることで磨いてきたものなのだ。
ここで注目したいのは、中学生のプロ棋士が詰将棋でその実力を飛躍させたというプロセスだ。同様の方法論で思い出すのは大リーグで活躍を続けるイチロー選手だ。子どもの頃から連日バッティングセンターに通い、大人顔負けに剛速球を打ち返す。動体視力が磨かれ、理にかなったフォームができ上がれば、あとは身体の成長を待ってトップステージに飛び出すだけだ。詰将棋で150キロの剛速球(難題)を打っていた藤井少年も、プロの世界でも難なくそのボールを打ち返した。
身近なところに私たちを成長させてくれるヒントがある。その気になれば、工夫次第で何でもできる。藤井棋士は詰将棋と向き合うことで強くなった。問題は環境ではなく、志の有無か? 藤井四段の登場にそんなメッセージを感じる。
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