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真壁昭夫の経済底流を読み解く ハイテク技術の進歩とわが国の課題

現在、世界の主要国はいずれも堅調な展開になっている。世界経済をけん引する要素の一つがハイテク技術の急速な進歩だ。われわれの身の回りでも、さまざまなハイテク技術で作られた製品が生活を便利にしている。世界の主要株式市場を見回しても、ハイテク関連企業の株価はしっかりしている。株式市場参加者が期待している成長のストーリーは、社会に“スマート”なデバイスが浸透することだろう。そうしたデバイス需要に加えて、より多く、かつ、より高機能のハイテク製品への需要が高まっている。具体的には、生産現場での省人化・自動化の促進、コネクテッドカーの開発、人工知能(AI)を搭載したスピーカー型スマートデバイスなどの普及が考えられる。そうした流れは自動車などの分野にも波及している。自動車は移動の手段としてだけではなく、移動する居住空間としての性格を強めている。このように、ハイテク技術の応用によって、従来のプロダクトの常識が激変し始めている。変化のスピードはかなり速い。

ハイテク技術の実用化が急速に進んできた原動力として、米国と並んで中国の存在は無視できない。中国では生産年齢人口が減少しており、徐々に労働コストが増加するだろう。その中で、生産性を高めるために工場の自動化が重視され、半導体需要が高まった。また、中国が内燃機関を搭載した自動車から電気自動車(EV)へのシフトを進めていることも大きい。中国の取り組みを受けて、世界的にEVの開発とマーケティングの強化を重視する企業が増えている。EVの生産は、デジタル家電の組み立てと似た部分が多い。性能を左右するバッテリーを中心に、必要な装置・部品ユニットを組み合わせることがメインになる。同時に、自動運転やネットワークとの接続による交通データなどの収集、車内での情報利用へのニーズが高まっているために、従来以上に高機能の半導体需要が高まっている。

そうした動きを反映して、昨年11月の貿易統計では、わが国から中国への輸出が過去最大の額を記録した。品目別にみると、半導体などの製造装置が前年同月比で約70%増加した。中国がわが国の半導体製造装置を必要としていることは、工業機械受注からも確認できる。需要は想定以上に堅調だ。素材・部品不足に加え、中小企業の対応力への懸念も高まっている。そのため、国内企業でも、需要の拡大による人手不足への対応として省人化技術を中心に設備投資が持ち直している。当面、産業用機械を中心に受注の伸びが期待できるとの見方は強く、株価も上昇基調だ。

ただ、見方を変えると、わが国の企業は自分で完成品をつくるよりも、新しいモノを生み出そうとする海外企業の下請け的な存在になりつつある。その意味では、足元の景気回復は海外需要に対する依存度が高く、国内経済の自律的な回復のみによるものとは考えにくい。あくまでも、海外経済が好調であるがゆえに、産業向けビジネスの分野を中心に、需要のひっ迫感が高まっている。

この環境は、制度改革や規制緩和を進めて企業のイノベーションを促し、他国にはない新しいプロダクトやサービスの開発を進めるチャンスだ。それが資本装備率の上昇を通した生産性の改善につながり、潜在成長率も上昇する可能性がある。それを支える構造改革が不可欠だ。問題は、わが国産業界に、なかなか新製品が生まれていないことだ。それができないと、長い目で見て、わが国の産業界が世界をリードすることは難しくなるはずだ。そこにわが国経済が抱える一つの問題がありそうだ。

ただ、わが国が抱える問題を解決する方法がないわけではない。むしろ、わが国企業が蓄積している高い技術力を活用する好機にもなり得る。これまで、思うように進められなかったイノベーションを国全体で推進すればよい。それができれば、わが国の経済力をさらに高めることは十分に可能だろう。重要なポイントは、われわれが本気でイノベーションを進める気になるか否かだ。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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