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まちの解体新書 ポテンシャルの高さ光る 他地域との差別化図る観光都市

全域が阿寒国立公園に含まれた、北海道で5番目に大きい淡水湖「阿寒湖」

国立公園や特別天然記念物など豊富な地域資源

道東の拠点都市として、広大で豊かな太平洋と内陸の雄大な自然を背景に発展してきた釧路市。平成17年10月に当時の釧路市、阿寒町、音別町が合併して、新生「釧路市」となった。面積は1362・75㎢、北海道内で3番目、全国7番目の広さを誇る。人口は約17万5000人で、道内第4位である。

「何といっても観光資源が豊富なこと。市内には釧路湿原、阿寒という二つの国立公園があり、手付かずの風光明媚(ふうこうめいび)な大自然を存分に味わうことができます。そして、ここでしか味わえない食。海産物の宝庫です。眼下に広がる太平洋の沖合では暖流と寒流が交わり、旬の新鮮な魚がたくさんとれます。とてもおいしく、他地域ではなかなか味わうことができません」

釧路商工会議所の栗林定正会頭は、観光都市としてのポテンシャルの高さを他の地域に負けない釧路の強みとして挙げる。

釧路市は、「釧路湿原」(昭和55年日本で最初のラムサール条約指定湿地に登録)とマリモが見られると人気が高い「阿寒」の二つの国立公園をはじめ、自然に恵まれたまちである。特別天然記念物のタンチョウや先のマリモなど、世界的にも貴重で魅力あふれる地域資源が豊富にある。景勝地は数知れず、代表的な場所としては釧路川の河口にかかる「幣舞(ぬさまい)橋」、年間を通して自然のタンチョウを観察できる「丹頂鶴自然公園」などがある。また歌人・石川啄木ゆかりの地でもある。

そして釧路市は、東北海道の中核都市として、社会、経済、文化の中心的な機能を担っている。酪農を主力とする豊かな農業、豊富な森林資源を有する林業、そして国内有数の水揚げ量を誇る水産業など、日本の食料基地といえる地域である。大規模な食品・製薬工場や製紙工場のほか、全国唯一の石炭鉱業所が操業しており、地域の主力産業として地域経済の核となっている。

これらの地域産業を支えているのが釧路港や釧路空港である。釧路港は港湾法に定める重要港湾であり、国際バルク戦略港湾にも指定され、飼料穀物の国内輸入拠点として整備が進められている。取り扱い貨物量は1552万tで道内4位である。一方で釧路空港の旅客数は約65万人と、人口の4倍弱。27年春には北海道横断自動車道(高速道路)が完成し、陸・海・空の交通の三拍子がそろった。

釧路商工会議所会頭 栗林 定正氏

物流拠点で交流の場として重要な釧路港

中でも、釧路港は栗林会頭のお墨付き。物流拠点であり、また交流の場としても重要な役割を果たしている。釧路港は明治32年8月に開港した。戦後復興の日本経済の拡大とともに取り扱い貨物が増大し、従来の釧路川河口に広がる東港区に加え、新釧路川以西の西港区へと開発が進められた。

東港区は中心市街地と隣接しており、釧路市観光国際交流センターや釧路フィッシャーマンズワーフMOOなどの施設がつくられ、市民や観光客の憩いの場となっている。23年3月には耐震・旅客船岸壁が整備され、近年は毎年、国内やアジア、イギリスなどから10隻程度のクルーズ船が入港している。西港区は釧路港における港湾物流の中心となっている。

「釧路港は漁業や酪農、物流の拠点である産業を支える港であると同時に、ロケーションが観光の重要な要素になっています。もっと港をブラッシュアップして、観光客を裏切らないポジションでいなければいけないと考えています。また、港町ならではの祭りが多いのも誇りに思っています。夏から秋にかけては、厳島神社例大祭、釧路霧フェスティバル、くしろ港まつり、釧路大漁どんぱくなどのお祭りが目白(めじろ)押し。そして、なんといっても、港の幣舞橋から眺める夕日は最高です。夕日に映える釧路のまちなみを皆さんに見てほしい」(栗林会頭)

釧路市の夕日はその類い稀(まれ)な美しさから、インドネシアのバリ島、フィリピンのマニラと並んで、世界三大夕日の一つに数えられている。この世界三大夕日は、世界中の港をめぐる船乗りたちの口コミが発祥だそうだ。海に沈む夕焼けが赤く見えるのは、大気に含まれる水蒸気による。釧路市の場合は、海に加え、湿原の水蒸気もプラスされ、より赤く見えるともいわれている。

世界三大夕日の一つに数えられる釧路市。釧路川河口にかかる幣舞橋付近の夕日は格別だ

国の観光施策4事業に認定された釧路市

釧路市は、昨年から今年にかけ、水のカムイ観光圏、ひがし北海道広域観光周遊ルート、観光立国ショーケース、国立公園満喫プロジェクトといった観光施策4事業で国の認定を受けた。いわば国の折り紙つき。国内観光のみならず、インバウンドにも国が大いなる期待を寄せている証拠である。

〝水のカムイ観光圏〟事業では、国内外の観光客を対象に3泊4日の滞在型プログラムを策定。〝ひがし北海道広域観光周遊ルート〟では、外国人観光客を道央から道東、道北に呼び込むルートを形成する。〝観光立国ショーケース〟では、外国人観光客を呼び込むためのWi-Fi環境整備など、受け入れ態勢を強化する。〝国立公園満喫プロジェクト〟は、ホテルの誘致や景観整備など観光と自然保護の観点から、外国人観光客の訪問数増加を主な内容とする。

この4事業に選定されたことで、国の財政的な支援を受けられ、外国人の誘客に大きく弾みが付きそうだ。いずれも外国人観光客をターゲットにした誘客強化を掲げていて、Wi-Fiのみならず、案内板の外国語表記、二次交通の整備などが進むとみられている。

阿寒湖周辺にある「アイヌコタン」。アイヌ民族の歴史や文化、生活を知ることができる

日本一涼しいまちをウリにする

また、釧路市は、○○のまちと言われることが多い。世界三大夕日のまちのほか、霧のまち、日本一涼しいまち……。

それは、いずれも釧路市の気候に由来するものばかり。気候は比較的穏やかで、夏は涼しく、冬は降雪量が少ない。沿岸部は一年を通して冷涼で、特に6月から8月にかけて多く発生する霧が幻想的な印象を与えている。夏でも20度に満たない日も珍しくなく、25度以上の夏日は稀である。7~9月の日中の最高気温の平均は21度前後と涼しく、まち全体がまさに天然のクーラー。

そこで、「日本一涼しいまち」として官民挙げてPRしたところ、クーラーなしで快適に過ごせると評判を呼んでいる。避暑地としてこの時期に旅行する人や長期滞在者が年々増加しているほか、スポーツ合宿地としても人気が高まっているという。20年度には長期滞在者が31人、 延べ滞在日数が531日だったが、27年度は455人、9871日と、格段に数字を伸ばしている。この結果、北海道が取りまとめる「北海道体験移住ちょっと暮らし」の27年度実績では、23年度から5年連続で全道第1位になっている。夏は暑いものという固定観念を打ち破り、地域の特色を前面に出す、いわば逆転の発想が奏功したのだ。

「日本一涼しいまち」をPRするビアガーデン事業。おもてなしが大好評だ

逆転の発想から生まれたおもてなし事業

この「日本一涼しいまち」の取り組みの一つとして、釧路商工会議所の青年部を中心とした手づくりのビアガーデン事業が挙げられる。7月下旬から約1カ月間のロングランで開催。今年度が5回目で、商工会議所役職員と青年部メンバーが繁華街(釧路の中心街にある飲食店の集積である末広町)の振興を目的に行っている。今年は、恒例の事業として楽しみにしている市民のみならず、観光客や出張者など延べで約3400人が来場した。取材時の8月上旬、釧路の気温を札幌、東京、那覇、暑いことで有名な熊谷と比較し、掲示していた。釧路は涼しいため屋外でのビアガーデンはなじまないと思われていたが、24年に青年部がこの涼しさを逆手にとった、この地ならではのビアガーデンを企画。夏には珍しい熱燗の提供、寒さ対策用ベンチコートや毛布の無料貸し出しなどのおもてなしが好評で、今では夏の風物詩となっている。

この事業に初回から携わり、今年度の実行委員長を務めた釧路商工会議所青年部会長の佐々木隆哉氏は「この事業は地域づくりの一環です。涼しさをマイナス要因とするのではなく、強みに変えるためにも、今後も継続して開催していきたいと考えています」と語る。そして、「地元の人たちにこの事業が浸透しつつあり、待っていてくれるリピーターもいます。また、市内のホテルなどにもポスターを掲示したり、割引券を置いたりしているので、観光客も増えてきています。釧路の涼しさをより多くの人に知ってもらいたい」と意気込む。

釧路商工会議所青年部の佐々木隆哉会長

人・モノ・金を稼げるまちへ

ご多分に漏れず、釧路でも人口減少は食い止めなければならない課題である。それだけに、栗林会頭はこの状況に手をこまねいているのではなく、打つべき策を打ち、次世代へとつないでいきたいとの思いが強い。「第一に、産業を活性化させ、持続的に発展できるまちにしたいと考えています。域内循環をより高め、お金や人材、企業を流失させることなく、外から人・モノ・金を取り込み稼がなければならない。第二に、商店街を元気にし、にぎわいのあるまちづくりを通じ、何度でも訪れたい、移り住んでみたいまちにしたいと思います。第三に、東北海道の県庁所在地のような存在であり、機能を果たしたい」と将来を展望する。

だからこそ、商工会議所として、再開発・駅周辺の整備を含めた中心市街地の活性化や観光振興に今後も重点的に取り組んでいきたい考えだ。建設需要や雇用創出、国内外からの来客増・それによる消費拡大など、さまざまなシナジー効果が期待されることから、商工会議所はIR(統合型リゾート)推進法の早期法制化と同構想の実現にも前向きである。

「産業の振興、インフラ整備、人材の育成……、進めていくべきことは山ほどあります。これらは商工会議所が長期的に取り組んでいかなければなりません。そのためには、フレキシブルな商工会議所でありたい。いろいろな方法で負の部分から脱却する元気をつくっていきます。経済は常に動き、さまざまなことに敏感に変化します。ありとあらゆる分野に種をまき、花を咲かせ、結実させていく」

「釧路単体でなく、必要ならば、十勝や根室などほかの地域とも連携していきたい」と、栗林会頭は商工会議所のあるべき姿を描く。釧路市はますます魅力的なまちになるに違いない。

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