Q 当社では、健康食品の薬効や病状が改善した顧客の体験談を載せたチラシを長寿研究会の名称で作成し、新聞折込チラシとして配布しています。そして、チラシに書き添えた連絡先からご連絡いただいた方に、研究会名義の資料と共に当社の健康食品のカタログを発送して販売しています。このような行為は消費者契約法に定められた契約締結の「勧誘」に当たるでしょうか。また、インターネット記事ではどうでしょうか。
A 折込チラシのほか、インターネット記事も消費者契約法に定められた「勧誘」に当たる可能性があります。消費者契約法に基づく広告の差止めや販売契約の取消し・返金請求などを受けないよう、記載内容に注意する必要があります。
折込チラシと「勧誘」への該当性
上記Qの折込チラシと同様のケースについて、最高裁では「たとえ事業者による働きかけが不特定多数の消費者に向けられたものであったとしても、個別の消費者の意思形成に直接影響を与えることもあり得るため、直ちにその働きかけが消費者契約法にいう「勧誘」に当たらないとはいえない」と判示しました。具体的にどんな条件が揃えば「勧誘」に当たるかについて明確な基準は示されておらず議論の余地はありますが、判決の論旨に従えば、上記Qの場合、折込チラシのほかインターネット記事も、消費者契約法に定める「勧誘」に該当する可能性があります。
裁判所の判断
先に紹介した事件では、薬効や体験談などをチラシに掲載することは景品表示法上の「優良誤認表示」に当たるとして、原告が当該内容の表示を差止めるよう求めていました。一審では原告が勝訴し、控訴審では後述の理由により逆転敗訴した後、最高裁では右記判断が示されましたが、被告が当該内容を削除したチラシに変更し、今後も問題となったチラシの配布を一切行わないと明言したことから、同チラシの配布を「現に行い又は行うおそれがある」とはいえないことを理由に、原告の請求は認められませんでした。
「勧誘」の解釈
一審で原告の請求が認容された後、控訴審からは、チラシ配布が消費者契約法の「勧誘」に該当するか否かが争点となりました。 控訴審では、特定の者に向けた勧誘方法は「勧誘」に含まれるが、客観的に見て「特定の消費者に働きかけて個別の契約締結の意思形成に直接影響を与えている」と考えられないものについては「勧誘」に含まれないと解するのが相当であると判示しました。その理由は、消費者契約法が「一定の状況下で消費者の契約締結や承諾の意思表示に対して、その取消しを認める」ことを目的としたものであることに照らして、「勧誘」には、事業者が不特定多数の消費者に広く行う働きかけは含まれず、個別消費者の意思形成に影響を与える働きかけを指すと解されるというものでした。解説書(『逐条解説 消費者契約法 第2版補訂版』商事法務)においてもそのように解されておりましたが、本件以外の下級審では結論が分かれていました。 最高裁判決では、消費者契約法には「勧誘」の定義規定は置かれていないところ、例えば商品内容や条件など取引に関する事項を消費者が具体的に認識し得るような広告により、事業者が不特定多数の消費者に向けて働きかけを行うときは、当該働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えることもあり得ることを理由に、上述のように判示しました。
インターネットの場合
媒体をインターネット記事にした場合、チラシで資料請求の際にカタログを同封する手法とは異なり、簡単に紹介記事から商品発注まで導くことも可能であり、消費者の意思形成に直接影響を与える可能性も高いでしょう。そのため、折込チラシと同様またはそれ以上に消費者契約法が適用される可能性があるということができます。 (弁護士・谷田哲哉)
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