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真壁昭夫の経済底流を読み解く わが国はデフレから抜け出せるか? 中国・欧州の経済悪化、日本企業の輸出伸び悩みに懸念

わが国の経済はデフレから抜け出せるだろうか?

足元のわが国の経済は、長く苦しめられてきたデフレから脱却できるか否か、重要なポイントに差し掛かっている。経済専門家の間でもさまざまな見方がある。

まず、最近の消費者物価指数の動きを見る限り、脱却の可能性が高まっていることに異論はないだろう。昨年4月に日本銀行がデフレ対策として〝異次元の金融緩和策〟を実施する前の3月、物価動向はマイナス0・5%(前年同月比)だった。しかし、その後の6月にはプラスに転じ、今年4月には変動の大きな生鮮食料品を除くベースで3・2%まで上昇している。日銀の試算では消費税率引き上げの影響を1・7%としており、それを割り引いても1・5%は物価指数が上昇したことになる。このように、月ごとの消費者物価指数の動きを見る限り、わが国の経済には、デフレから抜け出せる雰囲気ができつつあると感じる。

こうした物価の動きの背景には、いくつかの要因がある。一つは、労働市場が大きく改善していることだ。つい最近まで、求人数が求職者の数よりも少ない状況が続いていたのだが、足元で景気回復の期待が盛り上がっていることもあり、求人数が増加している。すでに全国レベルで見ると、求人数が求職者を上回る状況になっており、建設や輸送、さらには外食などの分野で人手不足が深刻化している。そうした状況を反映して、今年は久しぶりにベースアップを実施する企業が多かった。また、企業業績に連動しやすい夏の賞与も、昨年対比で上昇しているようだ。人々を取り巻く雇用・所得環境が改善したことによって、個人消費はしっかりした展開を示しており、ものを売りたい人が、買いたい人を上回る今までの状況が大きく改善している。当面、そうした傾向に大きな変化はないだろう。

もう一つは、足元で1ドル=100円を超える円安傾向が定着していることもあり、輸入物価が高止まりしていることだ。消費税率が引き上げられた4月以降、一時的に高額消費の売れ行きが大幅にダウンした時期はあったものの、5月以降の全国ベースの主要小売店の売上はむしろ健闘している。中でも、高額商品を多く扱うデパートの売上は徐々に回復基調をたどっており、高級衣料や宝飾品など、高額な輸入商品の売れ行きもまずまずといったところだ。また、発電用のLNG(液化天然ガス)などの輸入価格は高止まりしており、これから電気料金の引き上げなどの格好で物価を押し上げることになるだろう。当面、そうした要因は続いていき、物価には上昇圧力が続きやすい環境が継続するとみる。 一方、デフレに逆戻りするリスクや懸念も残っている。無視できないリスクの一つは、中国や欧州経済の予想外の悪化などによって、わが国経済が痛手を受けることだ。そのリスクが顕在化すると、企業の収益改善が期待されたほど進まず、消費者を取り巻く雇用・所得環境が逆戻りすることになる。その場合には、頼みの個人消費が落ち込む可能性が高い。

懸念としては、円安傾向にもかかわらず、わが国企業の輸出が伸び悩んでいることだ。家電製品やIT機器などを中心にわが国企業の製品競争力が低下していることもあり、期待されたほど輸出が増加していない。この傾向がさらに進むようだと、国内の需要に影響を及ぼし、供給が需要を上回るデフレギャップが再び拡大することが懸念される。また、為替市場で円が強含みの展開となり、自動車や機械などのわが国の主力輸出企業の業績が悪化することも考えられる。

今後のわが国経済を占う上で最も重要な点は、企業経営者が積極的にビジネスチャンス獲得に動くことではないか。90年代初頭のバブル崩壊と2008年のリーマンショックの後、わが国の企業経営者は守りの姿勢を取ることが多かった。その結果、大手企業などの手元に70兆円を超える資金が蓄積した。これからは、その原資を使って新しい技術や製品を開発することが必要だ。そうした行動が目立つようになれば、わが国経済は本格的にデフレから脱却できるかもしれない。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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