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真壁昭夫の経済底流を読み解く 「Gゼロ」の世界と中韓 今こそ日本は〝大人の外交〟展開を

1990年代の冷戦終焉(しゅうえん)後、米国は覇権国としての地位を確立する一方、〝世界の警察〟としての役割を担ってきた。それが、世界情勢を安定させる重要なファクターの一つであったことは言うまでもない。ところが、その米国に、いろいろな意味で陰りが見え始めた。特に、オバマ大統領の外交政策が、米国外の情勢に対して積極的な関与を抑えているように見えることが影響している。政治専門家の一人は、〝Gゼロ〟の世界情勢と称した。世界の中で圧倒的な影響力と発言力を持つ国が見当たらず、従来の秩序を維持することが難しくなっているのだ。そのため、シリアの内戦やウクライナなど、さまざまな地域で摩擦が起きていると考えられる。

そんな中、特に中国は、膨大な人口と高い経済成長率を背景に発言力を顕著に増しており、結果、わが国をはじめ、近隣諸国と多くの紛争を発生させている。その一因には、中国が米国のプレゼンス(存在感)低下を瀬踏みし、積極的な拡張主義を取っていることがあるのだろう。こうした中国の台頭に対し、アジア各国からは懸念の声が上がり始めている。

その一方で、中国は国内に無視できない重要な問題を抱えている。最も深刻なのは、民主化の遅れだ。中国専門家の一部には「80年代後半の天安門事件以降、民主化はほとんど進んでいない」との見方もある。情報・通信技術が発達した現代社会では、国民が目にする情報を完全に管理することはほぼ不可能だ。中国政府は、今でも大量の人員を動員してインターネットなどの情報管理を行っているようだが、それでも事実を全て覆い隠すことはできない。著しい経済格差や民族間の対立を目にした国民に、いろいろな不満が蓄積することは避けられない。その負のエネルギーは、いつ、どこで爆発するか分からない。事実、すでにウイグル自治区での暴動など、爆発の兆候が出始めている。それは、いずれ公安当局のコントロールが及ばないところまで達するだろう。

また、1979年以降、一人っ子政策を取ってきた中国では、15歳以上65歳未満の生産年齢人口の割合がすでに低下傾向をたどっている。13億人の人口を抱えているため、マイナス効果はすぐには顕在化しないものの、2020年代前半から経済に制約が掛かるはずだ。また、ほかにも不動産バブルを抱えており、すでに中小の不動産業者の破たんなど、バブル崩壊の兆候も見え始めている。今後、中国は成長力の鈍化とバブルの後始末の両方に対峙することになるはずだ。それは容易なことではない。台湾の友人は、「中国の成長力は鈍化し、いずれ普通の国にならざるを得ない」と指摘していた。彼は、中国は経済成長率の鈍化に伴って、どこかの段階では民主化を進めると予測する。この予測が適切であれば、われわれは、中国が付き合いやすい普通の国になる時点を待つことができる。

さらに、足元で朝鮮半島情勢にねじれ現象が出ている。中国が韓国の取り込みを狙うと同時に、北朝鮮が拉致問題などでわが国に歩み寄りの姿勢を示しているからだ。北朝鮮の金正恩第一書記の本音がどこにあるのかはいまひとつ不明だが、北朝鮮は、中国一辺倒だった今までの態勢を変え、リスク分散を図っているように見える。わが国は、そうした状況をできる限り有効に利用すべきだ。そのためには、ある程度、自分の力で安全保障や経済問題についてリスク分散を行い、問題解決への道筋を付けておく必要がある。わが国自身の国益がどこにあるかを明確にしておくことが大切だ。われわれ国民もしっかりとした意見を持ち、適正に世論を形成することが重要である。

そして、政府は今こそ、したたかな、〝大人の外交〟を展開する必要がある。言うべきことは言い、主張すべきことはためらわずに主張する、というスタンスだ。中国にしろ韓国にしろ、国内に難しい問題を抱えている。そうした状況のまま、両国の経済が現在のペースで成長できるとは考えにくい。それは両国とも十分に分かっているはずだ。わが国は、〝Gゼロ〟と称される困難な世界情勢の中で、常に冷静な大人のスタンスを維持すればよい。

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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真壁昭夫

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