温暖な気候に恵まれたまち
太平洋に面し、温暖な気候に恵まれた高知県東部の中核都市・安芸市。三菱グループの創始者である岩崎弥太郎が生まれたまちとして知られている。スポーツ好きであれば、阪神タイガースのキャンプ地としてもその名前を記憶している方もいるだろう。
現在の安芸市の人口は約1万8000人。その温暖な気候から農業が盛んで、なすとゆずは日本屈指の生産地だ。また、かつお、ちりめんじゃこなどの海の幸や、鮎漁なども盛んで多彩な食材に恵まれている。安芸の魅力について、安芸商工会議所の山本諭会頭は、「豊かな自然に恵まれているまちです。また、まちなかに武家屋敷が残っていますし、岩崎弥太郎という人物を輩出するなど古い歴史を持つまちでもあります。真冬でも、雪はほとんど降りません。それだけ温暖だということです。ですから長い間、阪神タイガースがキャンプ地に選んでくれている。野球に関していうと、タイガースだけでなく、大学・高校・専門学校など、たくさんのチームがキャンプ地に選んでくれています。また、何を食べてもおいしいというのも魅力です。ぜひ一度足を運んでいただきたいと思います」と笑顔を見せる。
オール安芸で「外貨」を稼ぐ
しかし、安芸市が置かれている状況は決して楽なものではない。少子化・高齢化が進み、市内の人口は減少。商圏も縮小しているという。全国的には景気が回復しているといわれているものの、安芸においては、「正直、景気が回復しているという実感は乏しいです」と安芸商工会議所の植村邦彦さん(経営指導員)は説明する。
こうした状況を打破するためには何が必要なのか、山本会頭はこう説明する。
「安芸市の持つ地域の強みを生かしながら、『外貨』を稼いでくるしかない。商工会議所は、これを実現するための支援を強化していく必要があります。安芸ならではのものを生かした新商品の開発や地元のよいものを売るための販路開拓を支援する、といったことが必要でしょうね」
都市部のニーズを知る
安芸の良いものを都市圏に売る、これにつなげるための取り組みの一つとして今年3月に東京で物産展「あきにあいにきて」が開催された。この物産展は観光協会が主催だが、安芸商工会議所・安芸市・JA土佐あきなどが協力している。特筆すべき点は安芸地域単独で実施したということだ。安芸市観光協会の畠中純水会長は、「高知県としてではなく、安芸単独で、東京で物産展をしたのははじめてです。今回、市内の各団体と共同でやったのは、それぞれの団体がバラバラにやっても効果が薄いから。しっかりとやるためには、どうしても協力することが必要だったのです」と力を込める。
山本会頭もこう続ける。
「オール安芸でやっていかないといけない。商工会議所や観光協会は、中期行動計画を共有しています。これからも同じビジョンをもってやっていきたいですね。それにJA土佐あきさんは当所の議員になってくれています。安芸では農業が盛んですから、今後は商業・工業だけでなく農業、そして水産業ともうまく連携していかないといけない」
東京で行われた物産展では、まっさきに安芸の野菜が売り切れたという。観光協会の小松身伸事務局長は、「あっという間に売り切れてしまい、正直びっくりしました。それだけ安芸の野菜は安心・安全で評価されているということだと思います。ただ、こうしたことも実際に自らが東京に行かなければわからなかったことです。今後は大都市圏での認知度を上げるとともに、そこで何が求められているかということも調べていきたいですね」と振り返る。
広域連携の核となる
日本で一番新しいローカル線である「ごめん・なはり線」が開通して11年。そして、鉄道に続き、悲願であった高速道路の整備が決まった。「開通はまだまだ先ですが、期待は大きいですね」と安芸商工会議所の岡村明彦専務理事は笑顔を見せる。環境が徐々に整備され、今後交流人口の増加が見込めることから、安芸市を含む近隣9市町村が連携し、広域観光キャンペーンを実施している。
「4月29日から12月23日までの期間で『高知家・まるごと東部博』という観光キャンペーンを実施しています。安芸市が一丸となって頑張るのはもちろん、高知県東部地域全体を盛り上げていきたいと思っています」(山本会頭)
このキャンペーンのコンセプトは、「高知県東部の人のおもてなしとジオの恵みにであう旅」だ。歴史や文化資源が豊富な「安芸・芸西」、特徴的な地質資源の多い「室戸・東洋」、自然の魅力あふれる「中芸」(奈半利町・田野町・安田町・北川村、馬路村で構成)の3ブロックを設定。それぞれに拠点施設を配置している。このイベントを運営している高知県東部地域博覧会推進協議会の名木栄作さんは、「これまでの観光振興の取り組みは、行政単位の取り組みで、〝点〟でしかありませんでした。これを〝線〟へ。そして〝面〟へという取り組みです。東部地域には面白いものがたくさんあります。ここでしか体験できないものがあるはずです」と力を込める。
高知県東部は広大なものの、9市町村を合わせても人口は5万1000人ほど。安芸市を見ても、人口は減少傾向だ。そんな中で、東部地域全体が協力して、交流人口の増加を図るイベントを実施する意味は決して小さくない。
「今後のことを考えると、基礎自治体単位ではなく、東部地域全体で物事を考えていく必要もあると思います。安芸市は高知県東部地域の中核都市。果たすべき役割も大きいと思います」(山本会頭)
地元JAを議員に
安芸市では、農業・漁業などの一次産業が盛んだ。安芸商工会議所ではこれまでも、農業との連携を模索してきた。農業と商工業が連携し、生産・加工・販売までを行う六次産業化を図りたいともいう。山本会頭はその狙いをこう説明する。「JA土佐あきさんには当所の議員になってもらっています。とても良い関係が築けています。安芸は農業が盛んですし、農業に携わる方が元気にならないと。そのためにも今後はこれまで以上に農業との連携を深めていきたいと思っています」。
安芸市の農産物の中で特に有名なのが、なすとゆず。どちらも日本屈指の生産量を誇るとともに、その品質も折り紙つきだ。 「大手しょうゆメーカーがつくるゆずポンには、安芸のゆずが使われています」(岡村専務)
安芸商工会議所では、このように積極的に農業との連携を図っている。山本会頭もこう続ける。
「安芸は一次産業のまちといってもよいと思います。当然農業に携わっている方もたくさんいらっしゃる。だから、その方々が潤わないと、まち全体が回っていかない。商業・工業をうまく回していくためにも、農業が元気にならないといけないのです。なすやゆずなどの農産物は、安芸の強みです。地産外商を推進するための大きな強みになるはずです」
ご当地グルメで市内飲食店が結束
安芸は農産物だけでなく、海の幸にも恵まれている。カツオはもちろん、見逃せないのが、〝ちりめんじゃこ〟だ。関東では、しらすとも言うが、これを使った「安芸釡あげちりめん丼」が名物として定着した。現在では、市内の17店舗で提供されている。安芸商工会議所の山本美栄女性会長は、「平成17年に本町商店街女性部の活動の中でお客さまに、おもてなしの一環として提供したのが最初です。海岸で、ちりめんをゆがいたものや、地元の野菜、ゆずなどをのせてお出ししました。そのとき、評判がとても良かった。これはぜひ安芸の新しい名物にしましょうという話になっていきました」と振り返る。
その後、商工会議所内の中心市街地活性化委員会で、これを、名物として売り出すべく「安芸釡あげちりめん丼」と命名した。
「当初は本町商店街女性部の方々も、イベントのときにしかつくれませんでした。市内で出せる店舗がどこかないかと声を掛けた結果、4店舗が手を挙げてくれ、安定的に市内で供給できるようになっていきました」(岡村専務)
平成22年、高知県を舞台にしたNHKの大河ドラマ『龍馬伝』が放送された。この影響で安芸へもたくさんの人がやってきた。
「おいでいただいた方にも、ちりめん丼は好評でした。これを、このままにしておいてはもったいないと思い、行政に相談しました。そして会議所に事務局になってもらい、釡あげちりめん丼楽会を設立することになりました」(山本女性会会長)
現在では、市内17店舗で「安芸釡あげちりめん丼」を楽しむことができるようになり、ご当地グルメとして好評を博している。しかし、山本会長は次も見据えている。その次の一手は、安芸の名物をふんだんに使った〝安芸まるごと丼〟だ。
「ちりめんじゃこに加えて、なすと幻の地鶏といわれている土佐ジローを使っています。今、まさに売り出し中です」
これらについて岡村専務も「外からいらした方は地元の新鮮なものを食べたいと思うはず。そのニーズにも合っているし、ありふれた日替わり定食しかなかった店にも新たなメニューとしてこれらが加わった。売上にも貢献してくれています」と笑顔を見せる。
ビジョンを共有し力を結集させる
山本会頭は笑顔でこう語る。
「商工会議所の取り組みとしてスポーツ関係の誘致をしてきて、阪神タイガースのキャンプをはじめ、一定の成果は出ている。これからは、商工会議所だけではなく、安芸市内の各種団体とビジョンを共有して協力していく必要があると思います。農業はもちろんですが、漁業関係も、です。また、東部博のように行政の枠を超えて連携していくことも必要となってくるでしょう。市内・地域内でビジョンを共有して、その力を結集させていかなければなりません」
今年は安芸が生んだ偉人、三菱グループの創始者である岩崎弥太郎生誕180年に当たる。この節目の年に安芸は新たな一歩を踏み出そうとしている。
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