IT・IoT活用後押し
日本商工会議所は9月20日、「平成29年度税制改正に関する意見」を取りまとめ、政府・与党など関係各方面に提出した。意見書では、中小企業の活力を最大限引き出す税制の整備が必要として、中小企業が財政や地域経済に大きく貢献している実態を示した上で、その経営の足かせになっている制度を見直すべきと主張している。意見書の概要は次の通り。
Ⅰ.中小企業の価値ある事業を次世代に承継し、新たな挑戦を促す税制の実現
○団塊世代の経営者が大量引退期を迎える「大事業承継時代」の到来は、世代交代によって、新たなビジネスを生み出す意欲ある経営者の活躍を促すまたとないチャンス。
○一方、相続税増税によって自社の株価対策に膨大なエネルギーを費やさざるを得ない中小企業経営者は少なくない。事業承継税制の利用者数は年間約500件に止まり、国際的にも大きく劣後
○中小企業の多様な事業承継の実態を踏まえ、本業に注力できる事業承継税制へと抜本的に見直すとともに、早期かつ計画的な事業承継を促す生前贈与に対する強力なインセンティブ措置が必要
〈「大事業承継時代」を乗り切るための税制措置の抜本的拡充〉
○諸外国並みの事業承継税制の確立~自由闊達(かったつ)な経営を制限する現行制度の抜本的見直し~
・成長に必要な経営人材の登用を制限する代表者要件・筆頭株主要件などの見直し
・事業環境の変化への対応を制限する事業継続要件の見直し(承継後5年間で納税免除など)
・税制の効果を薄め、複雑化させている対象株式総数制限の撤廃
・深刻な人手不足を踏まえた雇用要件の在り方の見直し
○早期・計画的な事業承継を促進する自社株の生前贈与への強力なインセンティブ措置 ・事業承継のために後継者へ自社株を生前贈与した場合は、大幅な評価減・軽減税率を適用すべき
○事業継続を前提とした、配当重視の評価方法への抜本的見直し ・事業承継時の非上場株式は、会社の清算を前提としたアプローチではなく、配当還元方式の適用拡大など、ゴーイングコンサーンを前提とした評価方法に見直すべき
○現行の取引相場のない株式の評価方法における当面の改善点
・純資産価額方式における資産、負債の評価について、以下の措置を認めるべき
▼地価上昇により業績にかかわらず自社株評価が上昇。会社保有の土地への評価減が必要
▼負債の範囲を見直し、退職給与引当金、賞与引当金を含めるべき
○M&Aを後押しするインセンティブ税制の創設(譲渡所得税の特別控除特例など)
○分散した株式の集約促進のための税制措置
・自社株買い取り時のみなし配当課税およびみなし贈与課税などの適用停止
・同族判定の範囲(6親等内の血族(はとこ)、3親等内の姻族(配偶者のおい・めい))の縮小
〈中小企業の挑戦を後押しする税制措置〉
○第4次産業革命を担う中小企業のIT・IoT活用の促進に向けた税制措置の創設
○新規創業促進ならびにベンチャーを後押しする税制措置
・創業後5年間の法人税・社会保険料の減免措置、欠損金の繰越控除期間の無期限化
・創業資金に係る贈与税非課税枠の創設
・ベンチャー投資促進税制の延長・企業からの直接投資の適用化
・産業競争力強化法に基づく創業者の登録免許税の軽減措置の延長
○深刻な人手不足の克服に向けた取り組みを後押しする税制措置
・所得拡大促進税制の複雑な適用要件の緩和・拡充(教育訓練費などの対象化)
・中小企業の生産性向上に資する、少額減価償却資産の取得価額の損金算入制度の拡充・本則化
・人材採用コストの上昇を緩和する雇用促進税制の拡充・延長
○国の成長戦略を加速する観点から、中小企業を活性化し、成長意欲を喚起する、役員給与の全額損金算入の実現および利益連動給与の中小企業への適用拡大が必要
Ⅱ.地域活性化、企業の生産性向上・活力強化に資する税制措置
〈民間投資や消費を喚起し、内需拡大・地域活性化に資する税制措置〉
○商業地などに係る固定資産税の負担調整措置の見直しには反対・地域経済の基盤である企業の収益状況や、企業が受益する行政サービスと税負担のバランスを踏まえれば、企業にこれ以上の固定資産税負担をかけるべきではない。現行の商業地などに係る負担調整措置を継続するとともに、地価上昇の著しい地域の状況を踏まえ、条例減額制度の拡充を図るべき。また、土地・家屋に係る固定資産税額の算定根拠の見える化を図り、納税者の納得性を高めるべき
○経済波及効果の高い住宅税制などの延長・拡充・新築住宅における固定資産税を2分の1に減免する措置の恒久化・居住用財産の買い換え・譲渡に伴う特例の延長、不動産取得税・印紙税の特例の延長
○域内消費を喚起する中小企業の交際費課税の特例の延長・拡充
〈地方創生の取り組みに資する税制措置〉
○中心市街地活性化、都市再生・再開発に資する税制措置・商業地域における空き地・空き店舗を利活用した所有者に対する固定資産税の減免措置の創設・空き地・空き店舗の所有者情報の明確化による権利調整などの円滑化を図るため、相続登記を行った者に対する相続税の一部控除や登録免許税の軽減措置の創設
○防災・減災に係る税制措置の創設・大規模災害発生時に備え、事業継続計画(BCP)に取り組む企業を後押しするため、建物・設備の耐震措置や防災設備などの導入、地域的な分散化を図るための設備・施設の設置などに係る設備投資減税の創設、固定資産税・都市計画税の減免など思い切った措置を講じるべき
〈納税環境整備・納税協力負担の軽減〉
○行政の効率化、中小企業の納税協力負担の軽減による社会全体での生産性向上
・e‐TaxとeLTaxの統合・連携強化による申告・納税手続きのワンストップ化の推進、申告受付時間の拡大(土日祝日・年末)、民間ソフトウエアとの連携強化
・マイナンバーの活用など、従業員の給与に係る納税事務の電子化による企業の事務負担の軽減
・地方自治体の税務事務の広域化・共同化によるワンストップ窓口の実現
・地方自治体ごとに異なる書類の様式や手続き、納付期限などの統一
・固定資産税の償却資産の申告期限と企業の法人税申告期限の統一
・中小企業に多大な事務負担を課す消費税の軽減税率・インボイス制度は導入すべきでない
○事業者の納税事務負担を増加させる個人住民税の現年課税化には反対
〈中小・中堅企業の活力強化を促す税制措置〉
○新規開業や立地促進、賃上げなどを阻害する事業所税の廃止
○企業の前向きな設備投資を阻害する償却資産に係る固定資産税の廃止
〈中小企業の経営基盤を毀損(きそん)する税制措置への反対〉
○外形標準課税の中小企業への適用拡大は断固反対・ガス供給業などにおける課税標準を見直す場合でも、中小企業への外形標準課税導入は反
○中小企業の経営の安定性を損なう欠損金繰越控除の制限は反対
○自己資本の充実を抑制する留保金課税の中小法人への適用拡大は反対
○設備投資意欲を減退させる減価償却制度の定額法への統一は反対
Ⅲ.消費税率引き上げに伴う課題
〈社会保障・税一体改革の断行、平成31年10月の消費税率10%引き上げの確実な実施〉
○社会保険料の事業主負担をはじめ、社会保険料・公費による負担が急増する中で、持続可能な社会保障制度の確立や少子化対策の充実・強化のため、消費税率10%への引き上げは必要。社会保障給付の一層の重点化・効率化の徹底はもとより、平成31年10月の税率引き上げの確実な実施に向け、社会保障財源としての消費税率引き上げに対する国民の理解を深めるとともに、経済環境の整備が重要
〈軽減税率・インボイス制度は導入すべきでない。軽減税率の導入はゼロベースで見直すとともに、インボイス制度は、廃止を含め、慎重に検討すべき〉
○商工会議所は、かねてから、軽減税率制度は、社会保障財源を毀損すること、中小企業に過度な事務負担を強いることから導入すべきではなく、単一税率を維持すべきであり、また、低所得者対策は、真に必要な者に対して、所得に応じたきめ細かな給付措置で対応すべきと主張してきた。こうした、これまでの商工会議所の主張に鑑み、軽減税率制度の導入は、ゼロベースで見直すべきであると考える
○適格請求書等保存方式(インボイス制度)は、飲食料品を取り扱う事業者のみならず、全ての事業者に対して、経理・納税方法の変更を強いるものであり、広範囲に影響を及ぼすとともに、500万者を超える免税事業者が取引から排除される恐れがある
○「所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)」において、消費税の軽減税率制度の導入後3年以内をめどに、事業者の準備状況や事業者の取引への影響の可能性などを検証し、必要があると認めるときは、その結果に基づいて法制上の措置その他の必要な措置を講ずると規定されている。EUにおいてインボイス制度のコンプライアンスコストの重さが指摘される一方で、わが国では帳簿および請求書等保存方式により、所得課税と消費税を一体的に計算できる仕組みが定着していることを踏まえ、わが国へのインボイス制度の導入に当たっては、軽減税率制度の導入後、十分な期間を設け、廃止を含め、慎重に検討すべき
○まずは、消費税率10%へ引き上げ後、インボイス制度導入前に、免税事業者に対する価格転嫁支援や課税選択を促す施策の展開が必要である。その上で、免税事業者の課税選択の動向、価格転嫁、取引排除などの実態を徹底的に調査・検証し、廃止を含め、必要な措置を検討すべき
〈円滑な価格転嫁の実現〉
○外税表示は、消費者の消費税への認識を高め、価格転嫁に効果的であることから恒久化し、事業者が表示方法を選択できるようにすべき
Ⅳ.女性の活躍促進・子育て世代の支援に向けた制度の見直し
〈女性の働きたい意思を尊重した税制・社会保険制度の見直し〉
○労働力人口の減少が進む中、成長を維持していくためには、女性や高齢者などが働きやすい環境を整備し、可能な限り働くことを選択してもらう必要がある
○現行の所得控除制度(基礎控除・配偶者控除・配偶者特別控除)は、累進税率の下では高所得世帯ほど税負担が軽減されており、多くの子育て層が含まれる低所得世帯(年収300~400万円)の負担軽減が必要。所得控除制度の見直しに当たっては、基礎控除、配偶者控除、配偶者特別控除を一本化し、所得額によらず税負担の軽減額が一定となる税額控除制度に移行すべき
○その際、単身世帯との公平性に配慮して、配偶者控除と同様に専業主婦世帯の税負担軽減を図るため、夫婦それぞれの所得に対して税額控除を適用するとともに、夫婦どちらか一方に控除しきれない税額控除額がある場合、他方の税額控除に上乗せする仕組みとすべきである〈子育て世帯の支援の拡充に向けた考え方〉
○社会保障給付の重点化・効率化の徹底・加速化、余力ある高齢者の応能負担の徹底などにより、財源を若年世代の結婚・出産・子育てなどの環境整備など、子育て世代への支援に配分すべき
○手厚い公的年金など控除を見直し、子育て世代への支援の拡充を図るべき
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