このコーナーでは、下請取引に関する「かけこみ寺」に相談があった事例を参考に、中小企業の取引上のトラブルや疑問点の解決の基本的な考え方や留意点を解説します。今回は「下請代金支払遅延等防止法(下請法)関係」の「金型の長期保管」についての相談事例をご紹介します。
「不当な経済上の利益提供」に該当の恐れ有り
Q.A社(資本金1億円)は、B社(資本金100億円)から継続して製品の部品の製造委託を受けていますが、現在製造中の金型はもちろん、生産を中止した製品の部品の金型についても数年以上にわたり、ずっと保管し続けています。これらの金型の所有権はほとんどがB社にあります。
大きな金型については、自社の倉庫では入りきらず、別途倉庫を借りており、その倉庫費用の負担が重くのしかかっています。B社に対して金型を処分するか、もしくは引き取るように求めても、もう少し保管してほしいと言われ、現在に至っています。どうすればよいのでしょうか。
A.A社とB社の取引は、「製造委託」に該当し、B社の資本金は3億円を超え、A社の資本金は3億円以下であることから、下請法の資本金基準を満たしており、下請法が適用されます。本件相談事例では、ほとんどの金型の所有権は親事業者にあるということですが、金型の保管とその費用負担について、どのような取り決めがなされているのかを契約書などで確認する必要があります。
まず、現在製造中のものは、下請事業者が使用し続けているわけですから、下請事業者が占有することは当然として、生産中止後の金型については、親事業者のB社が所有権を有する金型の長期保管を下請事業者A社に対して無償で強いているとすれば、下請法の「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」(法4条2項3号)に該当する恐れがあります。金型を引き取ってもらえないのであれば、その保管費用の負担について交渉をしてみてはいかがでしょうか。
生産を中止した金型の保管については、親事業者と下請事業者との間で事前に協議の上、保管費用の負担に関する事項を契約書などに記載しておくことが重要です。この場合、金型の所有権の帰属も関係してきます。親事業者に所有権があるという場合、生産中止後、下請事業者の費用負担で下請事業者に保管させることは、不当な経済上の利益の提供要請の禁止に触れる恐れがあります。金型の所有権が下請事業者にあるという場合であっても、生産中止の補給品のために下請事業者に保管させることは問題があります。補給品の単価の決定において、金型の保管費用を考慮していればともかく、そうでなければ、親事業者のために保管させていることには違いないのですから、その保管費用を一定限度親事業者が負担する取り決めをしておくことが重要です。そうした交渉段階においても、下請かけこみ寺に相談してください。
提供
公益財団法人 全国中小企業取引振興教会(全取協)
下請取引適正化の推進を目的に、全国48カ所に設置された「下請けかけこみ寺」を中小企業庁の委託より運営。
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