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まちの視点 事業資源集中で利益増

車の販売だけでなく、メンテナンスサービスにも重点を置いている

未使用車に品ぞろえを特化

この10年間で売り上げ3倍、利益35倍という驚異的な飛躍を遂げている企業がある。兵庫県明石市、JR明石駅から車で約10分、第二神明道路の大蔵谷インターチェンジ近くで、未使用軽自動車販売店「軽スタジオ大蔵谷」を経営する松尾モータースだ。

約1千坪の広い敷地には、ダイハツやスズキの軽自動車が200台以上並び、店舗に隣接する整備工場では全てのピットに車が置かれ、常に稼働している。作業台や棚には、工具や部材、備品が整理整頓されているのが印象的だ。

創業は1961年。以前はごく普通の中古車販売店で、高級車をはじめ、さまざまな車種を扱っていた。営業マンは完全歩合制で、個人の裁量に任されていたため、値引き販売は当たり前。お客によって商談内容も違っていたという。

ところがその後、不景気で車が売れない時代が到来。チラシを打ってもお客が来ない。その結果、在庫が膨らみ、一時は倒産寸前まで陥った。その上、社員とのコミュニケーション不足が原因で、営業マンが全員辞めてしまった。

そんな八方ふさがりを克服するターニングポイントになったのが、品ぞろえの見直しだった。同社の松尾章弘社長は品ぞろえを未使用軽自動車に特化、事業資源を集中することにした。その背景には、神戸市西区では2台目、3台目の軽自動車の需要が高く、時代的にも軽自動車の販売は伸びていることがあった。

未使用車とは新古車のことで、ディーラーが販売実績を上げるためにナンバー登録だけした車のこと。同社では毎月一括仕入れすることによりコストを抑え、新車より20万円程度安く提供。税金が安くなるほか、同社にとっては安定して販売できるというメリットがある。

鉄砲ではなく弾を売る

このように品ぞろえを絞り込む一方、松尾社長は新たな戦略を立てた。例えて言うならば、「鉄砲ではなく、弾を売る」こと。つまり、自動車に付帯するサービス商品の販売にも力を入れたのだ。

「車は鉄砲で、車検と点検、板金、保険は弾。付帯商品には、それぞれに市場が形成されているので全ての商品を取り込めば、顧客の来店頻度を上げる仕組みができる」(松尾社長)

例えば、お得なパッケージは、次回の車検費用や5年間無料のオイル交換など諸費用と雨よけバイザーを入れて19万8千円。これには、他社で購入した車のオイル交換1千円分と車検の割引特典も含まれる。車両、車検、保険のいずれももうけは平均1万5千円で、商品をいくつ展開できるかで、売り上げも大きく変わってくるという。 「しかも一家に2台車があれば、車検とオイル交換で3カ月に1回来店いただくことになる」(松尾社長)。そうすると、車検の早期予約や乗り換えの提案ができ、代替販路を取れるのが一番の狙いだ。

こうした取り組みが奏功し、同社の売り上げは10年間で3倍に拡大。どん底だった2005年は7億円だったが、15年度には22億円となった。また、利益も同期間に35倍増。12年にはスズキの新車販売台数が兵庫県下で1位を獲得。現在、1店舗での年間販売台数は1500台にのぼる。さらに、修理の一部を外注し、生産性を上げた結果、整備体制も月間800台を超えた。

今後は、地域内のシェアを高めるのが課題だ。「顧客の来店頻度が高まってきたので、あと2店舗は増やしたい」と松尾社長。

あれもこれもと品ぞろえするのではなく、顧客を明確にした上で品ぞろえを絞り込む。それを鉄砲と弾として売る同社躍進の秘訣はここにある。

(笹井清範・『商業界』編集長)

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