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まちの視点 価格ではなく価値で売る

自らがお客として納得できる品質と価格を追求している岸本さん

企業の競争手段は大きく二つに分けられる。価格の安さを売りとする「価格競争」か、他社にはない価格以外の付加価値を売りとする「非価格競争」である。

法政大学大学院の坂本光司教授の研究室が実施した「非価格競争に関する調査研究アンケート」(回答数836社)によると、国内の中小企業の81%が経営の主軸を価格競争に置いていることが分かった。この結果に対して坂本教授は「企業経営の本来の目的は、社員、顧客、取引先といった関係者とその家族、そして地域社会を幸せにすることにあります。誰かを犠牲にした価格競争にいそしむ経営が、人を幸せにすることなどあり得ません」と警鐘を鳴らす。

一方、「オンリーワンの非価格競争にシフトすれば、その苦しみから抜け出すことができます」と坂本教授。安易な安売りに走ることなく、価値を伝えて顧客の信頼を集める企業を取材した。

基準は「自分が欲しい商品か」

Tシャツをインターネットで販売する店「イージー」が京都に誕生したのが1995年。折しも同じ年、アメリカではジェフ・ベゾスがアマゾンの前身を立ち上げている。イージーは創業以来、20年間で累計29万人に販売してきた。その人気の秘密は、お客に対して自らが最高と確信する商品を、価値に見合った価格で提供したことによる。

品ぞろえは、シンプルなモノトーンのTシャツ一筋。ただし、その品質へのこだわりはオリジナリティーにあふれ、とどまるところを知らない。生地、カッティング、フォルム、色─企画段階から商品化に至る過程の全てに徹底したこだわりが込められている。

「商品の研究開発については自らの時間を使うだけのこと。コストを意識するよりも、〝自分自身が欲しいと思えるTシャツかどうか?〟に重きを置いています」とは代表取締役の岸本栄司さん。扱う商品の約7割が岸本さん自ら企画した自社ブランドだ。

価格設定においても、岸本さんの基準はゆるがない。イージーが取り扱う無地Tシャツは、衣料専門店から百貨店までさまざまな業態で販売され、価格は商品の持つ価値を示す指標としてお客に提示されている。岸本さんが提供する商品は、2900~6000円が中心価格である。

「量販店のメンズ衣料売り場の中では、一番奥の棚にディスプレーされている値頃。具体的には2900~3900円の価格帯です。百貨店では5000~2万円前後。各店舗の客層に対して、値頃感を持つ価格帯を設定しています。基準としているのは、私自身が買い得る価格であること」と話す。

価値の伝え方としては、商品の持つセールスポイントを徹底的に解説している。例えば、品質を伝えるために、自信がお客として納得できる素材を糸から選んでいることや、製造を委託している取引先との出会いや交渉方法、自社製品独自の織り方で生地を作っていることなど、詳細を説明するホームページ上に設けている。

「説明文を交えながら、何がセールスポイントなのかを伝えていく努力をしています。ここに感じ入っていただけるお客さまが、必ず存在するはずだと信じています」(岸本さん)

自分の方法に自信を持つ

どのような思いを持って商品を企画し、製造しているのか。その製造方法は、どのようなものなのか、一つ一つの要素について丁寧に説明する。いわば、店頭での商品説明や接客と同じ手法で、小売業としての姿勢は実際の店舗とネット通販も変わりはない。

「お客さまはどこで買うかではなく、誰から買うかを決めるもの。商人は自らのスタイルに自信を持って、お客さまに提案するべき存在です」(岸本さん)

同社の価格コンセプトは、Good value for money─顧客に対して売価に対する最高の値打ちを提供すること。イージーが提案するのは、岸本栄司という人物がこだわり抜いたTシャツのみ。つまり価格とは、岸田栄司という人物に対する値付けにほかならない。

(笹井清範・『商業界』編集長)

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