就職活動「学生の事情に配慮」
一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)は7日、採用選考に関する指針を改定した。2017年度入社の就職活動開始時期は6月1日に決定。学生が学業に専念できるよう企業に配慮を求めることなども盛り込んだ。特集では、同指針と取り組みの手引きを紹介する。
「採用選考に関する指針」の手引き
1.本指針の適用対象者について
指針では、「大学卒業予定者・大学院修士課程修了予定者」が対象となることを明記しているが、その他対象となるのは、短期大学および高等専門学校卒業予定者である。したがって、大学院博士課程(後期)に在籍している大学院生は対象とはならない。
また、指針の開始時期に関する規定は、日本国内の大学・大学院などに在籍する学生を対象とするものである。
2.広報活動について
⑴広報活動とは
企業が行う採用選考活動は、一般に広報活動と選考活動に大別することができる。広報活動とは、採用を目的として、業界情報、企業情報などを学生に対して広く発信していく活動を指す。
本来、こういった情報は可能な限り速やかに、適切な方法により提供していくことが、ミスマッチによる早期離職の防止のためにも望ましいものである。しかし、早期化ゆえの長期化の問題に鑑み、開始時期以前においては、不特定多数向けの情報発信以外の広報活動を自粛する。
広報活動の実施に際して留意すべきことは、それが実質的な選考とならないものとすることである。また、会社説明会などのように、選考活動と異なり学生が自主的に参加または不参加を決定することができるイベントなどの実施に当たっては、その後の選考活動に影響しない旨を明示するとともに、土日・祝日や平日の夕方開催に努めるなど、学事日程に十分配慮する。
⑵広報活動の開始時期について
広報活動の開始期日の起点は、自社の採用サイトあるいは就職情報会社の運営するサイトで学生の登録を受け付けるプレエントリーの開始時点とする。それより前には、学生の個人情報の取得や個人情報を活用した活動は一切行わないこととする。
また、広報活動の開始日より前に行うことができる活動は、ホームページにおける文字や写真、動画などを活用した情報発信、文書や冊子などの文字情報によるPRなど、不特定多数に向けたものにとどめる。なお、広報活動のスケジュールを事前に公表することは差し支えない。
⑶広報活動であることの明示について
広報活動の実施に当たっては、学生が自主的に参加の可否を判断できるよう、その後の選考活動に影響を与えるものではないことを十分周知する。具体的には、広報活動を行う際の告知・募集の段階と実施時の段階の双方において、当該活動が広報活動として行われる旨を、ホームページや印刷物への明記、会場での掲示や、口頭による説明などの形で学生に周知徹底する。
なお、広報活動であることを示す場合の内容としては、参考1のような例が考えられる。
3.選考活動について
⑴選考活動とは
選考活動とは、一定の基準に照らして学生を選抜することを目的とした活動を指す。
⑵選考活動の開始時期について
選考活動は、活動の名称や形式などを問わず、実態で判断すべきものである。具体的には、⑴選考の意思をもって学生の順位付けまたは選抜を行うもの、あるいは、⑵当該活動に参加しないと選考のための次のステップに進めないものをいう。こうした活動は、時間と場所を特定して学生を拘束して行う面接や試験などの「狭義の選考活動」と、エントリーシートによる事前スクリーニングなど多様な方法を含む「広義の選考活動」に分類することができる。
このうち、ウェブテストやテストセンターの受検、エントリーシートの提出など、日程・場所などに関して学生に大幅な裁量が与えられている「広義の選考活動」に開始時期の制限を課すことは、効率的な選考に支障が生じることや、学事日程への影響も少ないことなどを考慮すると適当ではない。そこで、開始時期(卒業・修了年度の6月1日)より前に自粛すべき活動は、面接と試験のみとする。
⑶選考活動における留意点
選考活動は、広報活動と異なり、学生が自主的に参加不参加を決定することができるものではないため、今般の開始時期の変更に伴い、学事日程に一層配慮していくことが求められる。
具体的には、面接や試験の実施に際し、対象となる学生から申し出があるケースも想定されるため、事前連絡についても余裕を持って行うほか、当該学生の事情を十分勘案しながら、例えば授業やゼミ、実験、教育実習などの時間と重ならないような設定とすることや、土日・祝日、夕方以降の時間帯の活用なども含めた工夫を行うことが考えられる。また、大学などの履修履歴(成績証明書など)について一層の活用を検討することが望ましい。
4.広報活動の開始日より前に実施するインターンシップについて
インターンシップは、産学連携による人材育成の観点から、学生の就業体験の機会を提供するものであり、社会貢献活動の一環と位置付けられるものである。
したがって、その実施にあたっては、採用選考活動とは一切関係ないことを明確にして行う必要がある。
企業の広報を含むプログラムを行う場合は、広報活動の開始日以降に実施すべきであり、混乱を避けるためにも、プログラム名としてインターンシップの呼称を使わないことが望ましい。
広報活動の開始日より前に実施するインターンシップは、「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方(平成26年4月8日一部改正 文部科学省・厚生労働省・経済産業省)」、「インターンシップの導入と運用のための手引き(平成21年7月文部科学省)」などを踏まえ、参考2のような条件を満たしたプログラムであることが求められる。
5.広報活動開始前に行われる学内セミナーについて
広報活動開始前に行われる学内セミナーは、学生の職業観を醸成し、職業適性や学生自身のキャリアについて考える機会を提供するものでなければならず、参加対象を特定年次の学生に限定しないプログラムであることが望ましい。したがって、業界情報、企業情報などを学生に対して広く発信する広報活動との区別が曖昧なものについては、採用選考活動の早期化・長期化につながることが懸念されるため、参加を自粛する。 ただし、参考3に掲げる条件を全て満たす場合に限り、大学が行うキャリア教育に協力していく観点から参加することができる。
6.留学経験者などに対する多様な採用選考機会の提供
近年ではグローバル人材を求める観点から、留学経験者を対象に、一括採用とは別に採用選考機会を設けることも少なくない。今般の選考活動開始時期の見直しにあたって、留学すると不利になるといった認識が学生に生じることのないようにする観点から、別途の採用選考機会の設定をはじめ、留学経験者向けのさまざまな取り組みを行っている企業は、自社の採用HPなどを活用しながら積極的な周知を行うことが求められる。
また、最近はセメスター制からクォーター制に移行する大学があるほか、ギャップイヤーを導入する動きもある。
今後とも多様な経験を経た学生が企業社会で活躍する道を開くため、一括採用のほかに夏季・秋季採用をはじめ、さまざまな募集機会を設けていくことが望ましい。
7.その他
⑴夏季における服装について
採用選考活動の実施期間において、クールビズなどの取り組みを実施している場合、学生に対して服装の取り扱いを周知する。
⑵卒後3年以内の未就業者について
卒後3年以内の未就業者の取り扱いについては、2015年10月1日から適用された「青少年の雇用機会の確保及び職場への定着に関して事業主、職業紹介事業者などその他の関係者が適切に対処するための指針」の趣旨を踏まえつつ、自社の実情や採用方針にのっとり、適切な対応に努める。
⑶高校卒業予定者について
高校卒業予定者については教育上の配慮を最優先とし、安定的な採用の確保に努める。
⑷指針および手引きの見直しについて
採用選考に関する指針および手引きは、活動の実態や、取り巻く環境の変化などを踏まえて、適宜、必要な見直しを行う。
採用選考に関する指針
一般社団法人 日本経済団体連合会
2015年12月7日改定
企業は、2017年度入社の大学卒業予定者・大学院修士課程修了予定者などの採用選考にあたり、下記の点に十分配慮しつつ自己責任原則に基づいて行動する。
なお、具体的に取り組む際は、本指針の手引きを踏まえて対応する。
記
1.公平・公正な採用の徹底
公平・公正で透明な採用の徹底に努め、男女雇用機会均等法、雇用対策法および若者雇用促進法に沿った採用選考活動を行い、学生の自由な就職活動を妨げる行為(正式内定日前の誓約書要求など)は一切しない。また、大学所在地による不利が生じないよう留意する。
2.正常な学校教育と学習環境の確保
在学全期間を通して知性、能力と人格を磨き、社会に貢献できる人材を育成、輩出する高等教育の趣旨を踏まえ、採用選考活動に当たっては、正常な学校教育と学習環境の確保に協力し、大学などの学事日程を尊重する。
3.採用選考活動開始時期
学生が本分である学業に専念する十分な時間を確保するため、採用選考活動については、以下で示す開始時期より早期に行うことは厳に慎む。
広報活動=卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降
選考活動=卒業・修了年度の6月1日以降
なお、活動にあたっては、学生の事情に配慮して行うように努める。
4.採用内定日の遵守
正式な内定日は、卒業・修了年度の10月1日以降とする。
5.多様な採用選考機会の提供
留学経験者に対して配慮するように努める。また、卒業時期の異なる学生や未就職卒業者などへの対応を図るため、多様な採用選考機会の提供(秋季採用、通年採用などの実施)に努める。
(参考1)会社説明会の場合の明示例
○明示する場面
1.開催の告知・募集段階
2.開催当日の案内(口頭、会場における掲示など)○具体例
例1)「この説明会は、学生の皆さまに今後の就職活動を行う上での参考として、当社や業界の状況をご理解いただくための広報活動の一環として開催するものであり、本説明会への参加の有無が今後の採用選考のプロセスに影響するものではありません」
(あるいは、下線部分に替えて)
本説明会に参加しなかったからといって、今後の採用選考上不利に働くことはありません
例2)「この説明会は、広報活動の一環として、当社の事業やCSRへの取り組みなどについて理解を深めていただくために行うものです。説明会への参加は任意であり、参加者の方々を対象に選考を行うことは致しません」
(参考2)就業体験としてのインターンシップの在り方
学生の就業体験の提供を通じた産学連携による人材育成を目的とすることに鑑み、当該プログラムは、5日間以上の期間をもって実施され、学生を企業の職場に受け入れるものとする。就業体験の提供であることを明確化するために、実施の際には、採用選考活動と関係ない旨をホームページなどで宣言した上で、以下の取り組みを併せて行うことが求められる。
○採用選考活動と明確に区別するため、告知・募集のための説明会は開催せず、また、合同説明会などのイベントにも参加しない。また、告知・募集は、ホームページなどウェブ上や、大学などを通じて行う。
○募集から実施までを通して、当該活動が就業体験の提供であり、採用選考活動とは無関係である旨の周知徹底を図り、参加する学生から活動の趣旨について書面などでの了解を得る。
○学生の就業体験の提供を通じた産学連携による人材育成を目的としていることが分かるよう、可能な限り詳細にプログラム内容を一般に公開する。
○インターンシップに際して取得した個人情報をその後の採用選考活動で使用しない。
○大学などのカリキュラム上、特定の年次に行う必要がある場合を除き、募集対象を学部3年/修士1年次の学生に限定しない。
※なお、広報活動開始後に実施するプログラムの場合は、上記の要件を必ずしも満たす必要はない。
(参考3)広報活動開始前に行われる学内セミナーへの参加条件
⑴「企業等の協力を得て取り組むキャリア教育としての学内行事実施に関する申合せ(平成26年9月16日就職問題懇談会)」に基づき、大学が企業に参加協力を求める内容を記した文書などに以下の点が明記されていること。
○大学が責任をもって主催(企画・運営)すること。
○大学が参加する学生に対し、キャリア教育の一環であり、採用選考活動とは一切関係ないことを明示していること。
○大学が参加企業に対し、学生の個人情報を提供しないこと。
⑵参加に当たっては、自社の採用選考活動に関する説明や資料の配付などを厳に慎む。また、学生の個人情報を一切取得しない。
問い合わせ先
経団連労働政策本部
TEL:03-6741-0181
FAX:03-6741-0381
E-mail:koyou@keidanren.or.jp
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