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テーマ別企業事例 実例に学び、今日から備えるBCP災害に強い企業・組織をつくる!

事例2 “想定外”をできるだけ少なくして想定の範囲内で準備する

上野油業(岡山県倉敷市)

被災直後、敷地内一面に泥がたまり、これを除去する作業に苦労した。パソコンなどは机の上に置いてあったものの、全て水没して使えなくなった

上野油業は、倉敷市を中心に岡山県南西部に10店舗のガソリンスタンドや2カ所のLPガス営業所などを運営している。昨年7月の集中豪雨ではガソリンスタンド1店舗が被災し、店舗や設備を含む敷地全体が水没。長期間の休業になると思われたが、即座に復旧に取り組み、被災からわずか7週間で営業再開にこぎ着けた。

店に水が押し寄せてきて車を置いて徒歩で避難

「店の状況を確認できたのは、洪水の2日後です。店の敷地内は全て水浸しで泥だらけ、店舗の中はめちゃくちゃでした」と、上野油業セルフ真備SS(サービスステーション)店長の藤田直親さんは被災直後の状況を振り返る。

昨年6月末から7月上旬にかけて西日本を中心に集中豪雨(「2018年7月豪雨」)が発生し、多くの被害をもたらした。セルフ真備SSのある倉敷市真備町では、7月6日夜から翌7日の朝までに川の堤防が次々に決壊、広範囲で洪水が発生した。7日早朝、すでに避難勧告が出ていたことから、上野油業・常務取締役の楠田淳治さんは早番担当者に連絡した。

「すると、周りが浸水していて家を出られないとのことでした。そこで、当日は遅番だった店長に電話をすると、すぐに店の様子を見に行ってくれるということだったので、状況が分かったら連絡をしてもらうことにしたのです」

楠田さんから連絡を受けた藤田さんは車で店に向かい、6時には店に着いた。「来る途中、浸水が20〜30㎝のところもありましたが、店の周りはそれほどでもなかったので店を開けました。ところが、8時前から水が増えてきて、常務に連絡して店を閉めることにしました。その準備をしていると、警察の車が来て、車を置いて遠くに逃げてくださいと。店を出ようとすると、そのときは浸水がまだ20㎝ほどだったのですが、水圧でドアがなかなか開かなくて。もっと水が上がっていたら、ドアは開かなかったでしょうね」

藤田さんが歩いて家に戻る中、くるぶしまでだった水は膝まで、そして腰まで上がり、押し寄せてくる水の流れで真っすぐ歩けないような状況になっていた。

早めに手配したことで業者も素早い対応が可能に

洪水時、店はほとんど水没し、浸水の深さは3・5mにも及んでいた。洪水時の空撮写真を見ると、周りの水田が全て水の下にある中、店のキャノピー(給油スペースの上にあるひさし)と店舗の天井、そして隣のコンビニの屋根だけが水の上に出ているような状況だったという。幸いなことに、地下のガソリン貯蔵タンクに通じる通気口の高さ(約4m)までは水が達しておらず、タンク内に水が入り込むことはなかったと、楠田さんは言う。

「ガソリンは無事でしたが、ガソリン計量機やセルフ給油機、精算機、店舗内のパソコンなど、全てが駄目になりました。そのため、最初の問題は店を修復して再開するか、再開をあきらめるかでした。修復するにしても、建築業者自身が被災しているところもあったので、すぐに工事に入れるか分かりませんでした。でも、真備地区ではほとんどのガソリンスタンドが被災していたので、うちが早く再開しないと、地域の皆さんが給油で困ることになる。そこで、早急に店を再開することにしました」

それが決まると楠田さんは、電気の配線や設備、電話回線、水の復旧といった基本部分からガソリンスタンド専用の機器まで、各業者に連絡し、できるだけ早く用意できないか頼んでいった。「各機器・設備メーカーさんとの日程調整が一番大変でしたが、早めに手配したから、業者さんも素早く対応できたのかもしれません」

泥水に浸った店舗内部の修復など建築業者がすぐに対応できない部分は従業員らで行うなどして、被災からわずか49日後の8月24日から、営業時間を短縮して店を再開することができた。

「危機管理マニュアル」で会社の指示を待たずに避難

再開後、周囲の多くの住民はまだ避難所や仮設住宅にいたこともあり、8月中の売り上げは被災前の4割程度で、9月に入って通常営業に戻してからも7割にとどまった。しかし、11月に入ると復旧作業が本格的に始まり、工事用の重機が店に多く来て、軽油の売り上げが伸びていった。

「今では売り上げは被災前より増えました。周辺の2軒のガソリンスタンドが閉鎖したというのもあります。でも、復旧作業が一段落したら、軽油の売り上げは落ちるでしょう」と楠田さんは見ている。

被災から1年ほどがたった今年6月、店の状況が落ち着いたということもあり、楠田さんは同社独自の「危機管理マニュアル」を作成し、各事業所に貼り出した。

「今回の一番の反省点は、従業員に命の危険が迫っていて、本当なら仕事に来てはいけないという指示を会社が出さなければいけないのに、出せなかったことです。従業員の命が何よりも大切なので、市町村から警戒レベル4が出たら全員避難という内閣府の指針が出たこともあり、そうなったらとにかく逃げろというマニュアルをつくりました。これを見れば、会社からの指示を待たずに自分の判断ですぐに避難できますから」

今回の経験で災害の備えに対する心構えが変わったと楠田さんは言う。「“想定外”という言葉をそう簡単に使ってはいけない。想定外をできるだけ少なくして、想定の範囲内で何事もできるように準備する必要性を感じています」

自然災害はときに人間の想像をはるかに超える被害をもたらす。想定外をできるだけ少なくするためにも、今のうちからさまざまなケースをより重大に想定して備えていく必要がある。

会社データ

社名:上野油業株式会社(うえのゆぎょう)

所在地:岡山県倉敷市玉島八島1302

電話:086-522-5161

代表者:上野民松 代表取締役社長

従業員:104人(2019年4月現在パート・アルバイト70人含む)

HP:http://ueno-oil.com/

※月刊石垣2019年9月号に掲載された記事です。

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