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テーマ別企業事例 実例に学び、今日から備えるBCP災害に強い企業・組織をつくる!

事例3 甚大な水災被害を「信用」に変換事業を分散し、リスク回避を図る

空閑園芸(福岡県朝倉市)

本社農場は18000㎡、施設面積12000㎡。他に大分県九重町にも農場を有し、年間出荷数量は350万ポット、カットパック苗200万本を誇る

2017年7月の九州北部豪雨は、日本の気象観測史上で最大級の規模となった。その被災企業としてメディアでも取り上げられた空閑園芸の損失額は、億単位に上ったという。あの大打撃から2年、リスクを軽減し万全な備えで水害に強い企業として再起を果たした。

60年に一度の災害が5年の間に2度襲来

2012年7月に九州北部を襲った集中豪雨。それは約60年ぶりの非常事態で、年配の人が幼少時の記憶にとどめる程度だった。それまで空閑園芸のある福岡県朝倉市一帯は大きな災害がなく、12年当時1mほど冠水して5000万円ほどの被害が出たものの「60年に一度なら、天災なので仕方ない」と代表取締役の空閑正樹さんも半ば諦めた。だが、その認識は5年後に覆される。60年に一度のはずの豪雨の再来だ。行方不明者、死者を出す甚大な被害をもたらした2017年九州北部豪雨である。

「農場は1・6mも冠水し、トラック10台以上が駄目になりました。損失は億単位に上ります」と当時を振り返る空閑さん。空閑園芸は、一部上場企業とのみ取引しており、ブランド苗の委託生産を全国規模で請け負っている。出荷できなければ、取引先との信用問題につながってしまう。胸元まで水に漬かりながら、文字通り体を張って従業員と植物を守り抜き「完納」したが、そんなことを続けていては体が持たない。早期復旧とともに、経営者として5年、10年先を見据えた重大な経営判断が迫られた。

「脳裏に浮かんだのは、事業をたたむ、移転する、ここにとどまる。三つの選択肢です。どれもかなりの覚悟が伴います。全ての可能性を探って、被災の翌日には情報収集に奔走し、数カ月、自分の中でシミュレーションし続けました」

そして決断したのが残留だ。そこに至ったのは、ボランティアの存在が大きいという。県内外から1日50人ものボランティアが連日駆け付け、膨大な土砂やゴミと化した資材や設備を片付けてくれた。その光景に一縷の希望が生まれ、国、県、市の補助金制度などの支援も、残留が前提だったことで覚悟を決めた。

「情報が錯綜する中、熊本地震で被災した同業の仲間から、罹災証明時に被災時の写真などがあるといいこと、朝倉商工会議所からは申請に必要な書類、窓口などの有益な情報がもらえて助かりました」

1年かけて原状回復率60%まで戻していった。

設備投資や大量購入をやめ必要最小限でリスクを軽減

「昨夏、従業員と1年を乗り切ったお祝いを事務所で開きました。ところが、当日深夜の映像がこれです」

そう言って映し出したのは、事務所の床上浸水の様子だ。

「1年前と同規模の集中豪雨です」と苦笑する空閑さん。60年に一度が5年後に訪れ、さらに翌年と畳み掛けるようにやってくる。だが、空閑さんに悲壮感はまるでない。

「2年前に火災保険も見直しました。地震保険を付帯すると金額が跳ね上がりますが、水災はそれほどでもなく、台風の補償よりも内容が充実していました」

また、生産している花や野菜の苗、農業資材、車、事務用品など、あらゆるものを極力高い位置に配置し、20台あったパソコンを2台に削減。まとめ買いをやめ、事務用品のストックゼロを徹底した。

「収入印紙さえストックしていません。場所を取るものではありませんが、1枚5000円、1万円の印紙が流されることを想定すれば、ストックするリスクの方が高い。外出時のついでに郵便局に立ち寄れば済むことで、以前と経費も効率も変わりません」

また農場全体も一極集中型から分散型にし、機械導入による効率的な栽培方法も見直した。

「先代、先々代が進めてきたビジネスモデルで、全国から視察に来たり、賞をもらったりしてきましたが、分散した方が全滅を免れますし、1台2000万円もする機械を導入しても、水没すれば一巻の終わりです。被災して私も従業員も片付けの大変さを、身をもって体験しましたから、モノを持たない改革はスムーズに進みました」

自社、顧客の災害に強いグローバル企業へ躍進

手元に置かないのは「モノ」だけではない。「データ」もだ。銀行の通帳や印鑑、総勘定元帳など経理上の重要書類は全て流れたが、同社のもう一つの財産、3代かけて培ってきた何百という品種の栽培データは、クラウドに保存していたため消滅しなかった。

「パソコンや外付けハードディスク内のみの保存だったら、違う道を選んだかもしれません。ネット上でのデータ管理は、BCPに有力といえます」と説く。

そして、17年の豪雨では1年かけて半分の復旧だったのに対し、昨年の水害はわずか1週間という驚異的な回復力を持つようになる。

「豪雨になる予報だったので、事前に浸水想定で片付けておいたのが功を奏しました。それも従業員主導で、です」とうれしそうに語る。

近年は、自社のリスク回避だけではなく、取引先の地域が被災した時の出荷リスクの回避に向け、欧米を中心とした海外の取引先の開拓・拡大も積極的に進めている。そのため空閑さんが不在なことも多いが、〝備え〟は万全だ。

「農場や事務所に観測カメラを設置して、世界中どこからでも状況を把握でき、万が一の時には指示が出せるようにしています。それに60年に一度の豪雨は、もう毎年来てもおかしくありません。それなら毎月来てもいいようにしようと従業員と話し合ってきました。今では『いつでも来てください』という心境ですよ」と笑う。

水害に遭っても取引、品質に支障なし。それがブランド価値を高め、信頼関係を厚くし、新規顧客の獲得につながる。同社が逆境で培ったバネは、相当強靭だ。

会社データ

社名:有限会社空閑園芸(くがえんげい)

所在地:福岡県朝倉市片延68-3

電話:0946-22-2975

代表者:空閑正樹 代表取締役

従業員:8人

HP:http://www.nae.co.jp/

※月刊石垣2019年9月号に掲載された記事です。

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