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テーマ別企業事例 実例に学び、今日から備えるBCP災害に強い企業・組織をつくる!

巨大地震をはじめとする自然災害や火災……、さまざまな災害に備えたBCP(事業継続計画)対策の重要性が叫ばれているが、中小・小規模企業ではBCP対策がなかなか進んでいないという現状がある。そこで、被災から見事に復活し事業を再開した企業の実体験からBCPの重要性に迫った。

総論 郷土の被災史から見たBCPの重要性

清水 男/総社商工会議所 会頭

清水 男(しみず・だん) 総社商工会議所 会頭 株式会社三松代表取締役社長 1952年生まれ、岡山県総社市出身。東京理科大学工業化学科卒、米国チャップマン大学大学院修了(MBA取得)。一般社団法人岡山経済同友会防災・BCP委員会委員長、一般社団法人岡山県法人会連合会副会長なども務める

昨年7月、西日本一帯を中心に集中豪雨が襲い、各地に多くの被害をもたらした。それまで「自然災害が少ない」と言われていた岡山県でも、河川の氾濫や堤防の決壊などによる洪水で多くの被災者を出した。今回の災害以前から岡山県や総社市の災害の歴史を調べ、災害対策の必要性を訴えてきた総社商工会議所会頭の清水男さんに、企業が準備しておくべきBCPについて話を伺った。

これまでにない地震と津波が岡山県を襲う可能性がある

人口約7万人の総社市は岡山県南部に位置し、岡山市と倉敷市に隣接している。昨年7月の集中豪雨では、一部の地域で河川が氾濫して事業所や家屋が浸水するなどの大きな被害に見舞われたものの、市民の犠牲者は少なかった。

災害が少ないとされてきた岡山県。こうした中、清水さんは、長年にわたり岡山県および総社市で起きた災害の歴史を独自に調べてきた。東日本大震災が起こる2年前の2009年には地元紙で東南海・南海地震(四国沖から静岡県の駿河湾までの海底にある南海トラフ沿いの地域で繰り返し発生している巨大地震。南海トラフ地震ともいう)に関するコラムを掲載し、12年には「東海〜日向灘4連動地震の津波対策と総社市域の災害の歴史」という冊子を発刊している。災害について調べるようになった経緯について、清水さんはこう語る。

「今から26年前の1993年に北海道南西沖地震が発生し、津波で奥尻島では多くの方が犠牲になりました。そのニュースに私は大きなショックを受け、それ以来、自然災害について調べるようになったのです。すると、岡山でも1854年に起きた地震で大きな被害があったことが分かり、津波で人も家も海に引き込まれたと書かれていました。そこで2009年に、当時地元紙に連載していたコラムで、東南海・南海地震について、それまで調べた資料から、これまでにない地震と津波が岡山県を襲う可能性がある、それに対して備えておくべきだということを書いたのです」

さらに歴史を調べると、岡山県では地震よりも洪水の方が多くの被害をもたらしていた。「岡山県には高梁川、吉井川、旭川という三つの大きな河川が流れており、洪水が非常に大きな災害になっています。江戸時代以前まで備前(現在の岡山県南東部辺り)では刀の生産が盛んでしたが、天正14(1586)年ごろに起こった水害で多くの刀鍛冶がいなくなり、刀の生産が廃れてしまいました。そして1934年には旭川が、45年には吉井川が氾濫して、それぞれ百数十人の方が亡くなっていました」

全ての機関で事業継続計画書の作成を

清水さんが災害の歴史を研究し、地元企業への普及を図っているのがBCP(Business Continuity Plan)である。BCPとは「事業継続計画」のこと。企業が災害で被災した場合に、損害を最小限に抑え、中核となる事業の継続や早期復旧を図るために、その手段を前もってまとめておく計画のことだ。内閣府の中央防災会議は、来たるべき巨大地震に備え、企業におけるBCP策定の重要性を提言した。これを受けて中小企業庁では、中小企業へのBCP普及を促進するために「中小企業BCP策定運用指針」を作成している。

この中小企業BCP策定運用指針について、清水さんは次のように説明する。「BCP策定運用指針には入門、基本、中級、上級の四つのコースがあり、入門コースであれば非常に簡単で、用意されたBCPの様式に沿って記入していくことで、40分もあれば必要最低限のBCPを策定することができます。これは6ページの事業継続計画書ですが、そこでは、被災した際に自社の事業を継続するために何が最も重要か、優先的に継続または復旧させる商品・サービスは何かを明確にし、そのためには何をすべきかを、人、モノ、情報、カネという四つの経営資源における事前対策をあらかじめ決めておくというものです」

自社にとって最重要商品・サービスが何かは各企業によって異なり、そのための事前対策も異なってくる。またBCPは、企業だけではなく、行政や公共機関など、全ての機関で必要とされると清水さんは言う。「BCPのBはビジネスですが、これは事業ではなく業務のことです。そう考えれば、例えば病院であれば、災害が起こったらまず重要なのは患者さんの命を守ることで、そのためには事前に何をするべきかを考える必要があるというわけです」

低利融資や助成金など作成にはメリットも

中小企業BCP策定運用指針は、中小企業庁のホームページからダウンロードすることができる(https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/)。そこでは、BCPの重要性や策定、運用方法などの説明とともに、最後に、様式に沿って書き込んでいくことで作成できる事業継続計画書も添付されている。

「このBCPの作成は難しくありません。自社の重要商品・サービスは何か、被災した際にそれを継続するために何を準備しておくかを決めるだけです。実際に災害が起きたとき、BCP策定済みの企業は早期に事業を復旧し、経営を続けていくことができますが、策定していない企業は廃業や事業縮小に追い込まれてしまいます。また、事業継続計画書を作成すれば、防災に関する施設の整備に必要な資金の融資を日本政策金融公庫から低利で受けたり、国や地方自治体などによるBCPのための助成金を受けたりすることができるようになります」

このBCPのための事業継続計画書以外にも、清水さんはこれまで調べてきた災害の歴史を基に、「南海トラフ地震・津波防災カード」を作成し、清水さんが委員長を務める岡山経済同友会の防災・BCP委員会を通じて普及を図っている。ここには、自宅や出先の標高、避難先の標高、避難先までの距離や予想到達時間などを書き込んでいく。その裏面は、「南海トラフ地震・津波BCP個人カード」になっており、被災したら何を優先するべきか、連絡先はどこかといったことを書き込むようになっている。自宅や勤務先の標高は、インターネットの『地理院地図』で調べることができる。

「大地震が起きたら、全ての電源が落ちて、情報が得られない可能性がある。そのときにこれを見て、自分で行動を判断して家族や会社の業務を助けようというものになっています。南海トラフ地震はいつ起きてもおかしくないので、これを常に携帯していただき、家族も従業員も、災害が起こったときのために備えていただけたらと思っています」

岡山県で策定済み中小企業は全体の5%にも満たない

岡山県法人会連合会でも今年2月に、中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」の入門コースを抜粋した資料を作成し、前述した「防災カード」「BCP個人カード」と併せて、会員企業約1万3000社に配布している。

「県内の全企業に事業継続計画書を作成してもらいたいのですが、実際に作成済みなのは大企業でも30〜40%、中小企業になると5%あるかどうかです。研修会などを開いて、作成する企業を増やしていきます」

また総社市は、前述したように、歴史的に見ても水害は多いものの大きな地震による被害は少ないことから、南海トラフ地震が発生した際には、周囲の市町村の住民を助ける側に回る可能性が高いと、清水さんは見ている。

「そのためにも、多くの中小企業に事業継続計画書をつくっていただいて防災意識を高め、実際に災害が起きたらすぐに復旧体制を整えて、総社市が県内外の人たちを助ける側に回っていけるようにしていかなければなりません」

実際に総社市では、2013年12月に全国に先駆けて「大規模災害被災地支援に関する条例」を、17年9月には「大規模災害被災者の受入れに関する条例」を制定している。これは、大規模な災害で被災し、総社市内に避難して居住を求める者に対しては空き家を住居として提供し、避難生活支援金を支給するというものである。

「商工会議所など全国の経済団体で、BCP策定や防災カード・BCP個人カードについて詳しい説明が必要な場合、私をお呼びいただければ、日程調整の上、できる限り伺います。多くの中小企業の経営者の方々に、ぜひともBCPの重要性を知っていただき、事業継続計画書を作成していただけたらと思っています」

大災害はいつ発生するか分からない。企業としてそれに備えるためにも、今すぐにBCP策定を始めるべきであろう。

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