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テーマ別企業事例 実例に学び、今日から備えるBCP災害に強い企業・組織をつくる!

事例1 “老舗”に固執せず時代に合った事業再建を目指す

鶴来家(新潟県糸魚川市)

180人を収容できる大広間や部屋ごとに異なる室内装飾など、歴史の重みを感じさせる被災前の店舗

2016年12月の糸魚川市大規模火災で全焼した老舗割烹・鶴来家。創業から約200年にわたって受け継いできたもの全てを失ったが、頭を切り替えて今の時代に合った事業再建を模索した。店の規模を縮小し、効率化を図って、今年4月に再スタートを果たす。その後、従業員への防災意識の徹底にも力を注いでいる。

元々火災が多く過去にも2度の大火を経験

焼山おろし、姫川おろし、だし風、じもん風―。高い山に囲まれた谷に広がる糸魚川市では、山から海に向かって強い南風が吹き下ろす。5月に吹く生暖かい南風は、ホタルイカが取れる知らせと言われる一方、フェーン現象による乾燥した南風はしばしば災害を引き起こしてきた。

2016年12月22日、そんな同市で起こった“糸魚川大火”は記憶に新しい。中華料理店の大型コンロの消し忘れから発生した火災は、強い南風によって瞬く間に周辺に燃え広がった。懸命の消火活動にもかかわらず火勢は拡大し、4万㎡が焼損した。この大火で被災したのが老舗割烹の鶴来家だ。

「私はその日、調理道具の買い出しで東京の合羽橋にいたんです。10時半ごろに店から『近くで火災が起きた』という知らせが来たときは切羽詰まった様子ではなかったんですが、早く帰った方がいいと思い上野から新幹線に乗ろうとしたとき、また電話が鳴って『2階の大広間に火が移った』と。今回ばかりは駄目かと思いました」と五代目で社長の青木孝夫さんは当時の様子を説明する。

創業から約200年の歴史を誇り、地元の人たちから親しまれてきた同店は、過去の2度の大火では延焼を免れたものの、このときは全焼してしまった。先祖代々から受け継いだ文献や美術品、部屋ごとに異なる組子障子、床柱、食器類など、全てが灰となった。

頭を切り替えて被災直後から事業再建に乗り出す

しかし、青木さんは崩れゆく店を眺めながら、事業再建について考えていたという。年末年始の書き入れ時で、忘年会に新年会、お節料理などの予約が目いっぱい入っていた。店を焼失したため、それらはキャンセルせざるを得なかったが、弁当だけならできるのではと思ったのだ。

「年明けの1月8日に、えちごトキめき鉄道の観光列車『雪月花』で振る舞われる和食弁当を受注していたんです。これだけは何としてもやりたかった。幸い自宅は無事でしたので、庭にプレハブを建てて調理場をつくることにしました」

青木さんは早速行動を開始した。ぐずぐずしていると年末年始休暇に入ってしまう。その前に各業者を呼んで打ち合わせをし、28日には電気配線や水道配管に着工。役所にも営業許可を申請した。年明けの6日にはほぼ完成し、すぐに弁当の仕込みに取り掛かった。まさに火事場のばか力である。

一方、店舗の再建には時間がかかった。公共インフラがある程度復旧してからでないと、民家や店舗の建設ができなかったためだ。そこで自宅の1階を客間に改装し、少人数の客を受け入れられるようにした。そうして生活基盤を確保しながら、新たな店舗の構想を練った。

「家族とも相談して、外観は美術館風に、内装は和風モダンでまとめることにしました。昔の店を再現しようとすればするほどお金もかかるので、今の時代に合った店にしようと思ったんです」

こだわったのは建築デザインだけではない。店舗の延べ床面積を被災前の約3分の1の290㎡にした。少人数グループでの利用が多い現状に沿って大広間をなくし、個室でゆったりと食事を楽しめるようにと考えた。

「実は店舗面積が300㎡を超えると、消防法で大型の火災探知機の設置が義務付けられているんです。でも、設置場所に制約があるし、毎年のメンテナンスにもコストがかかるので、300㎡未満は大きなポイントでした」

従業員全員による点検作業で防災意識を高める

また、先々を考えて調理と配膳の効率化も図った。調理場を店の中央に配して、各客室までの距離を短くし、短時間でスムーズに運べるようにした。それを可能にしたのが新しい調理機器だ。水蒸気で加熱するスチームコンベクション、調理した食品を急速冷却するブラストチラー、食材の長期保存を可能にする真空包装機の導入により、自慢の味をそのままに冷凍保存し、必要に応じて温め、速やかに提供できる。

「以前から欲しかったんですが、予算オーバーだったんです。商工会議所に相談したところ、中小企業のものづくりを支援する国の補助金制度があると教えてもらいました。それを活用して3台全てそろえることができました」

こうして着々と準備を進め、今年4月、新生・鶴来家は再スタートを切った。常連客のほか新規客も付き、滑り出しは上々のようだ。

「ここまでこぎ着けるのは本当に大変でした。それだけに防災への備えの大切さを身に染みて感じています。その反省を生かして、以前は私一人でやっていた店の最後の点検を、現在は細かい点検リストをつくって従業員全員で行い、防災への意識付けに力を注いでいます」

大きな災害を乗り越えて、新たな一歩を踏み出した同店。失った過去の形に固執せず、今の時代に即した新しい店を目指したところに、老舗の暖簾を守り抜く強い意志が垣間見えた。

会社データ

社名:合名会社鶴来家(つるぎや)

所在地:新潟県糸魚川市大町2-13-1

電話:025-552-2233

代表者:青木孝夫 代表取締役社長

従業員:5人

HP:https://turukiyaaoki.wixsite.com/turukiya

※月刊石垣2019年9月号に掲載された記事です。

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