今号は、女性経営者が事業承継を契機に自社の活性化を図っている事例をご紹介します。
埼玉県秩父市に二ノ宮製作所という精密板金加工を得意とする企業があります。創業は昭和22年、順調に成長を重ねてきましたが、3代目の二ノ宮紀子さんが経営のバトンを受けたタイミングは最悪でした。それは、大震災直後、しかもリーマンショックの影響も残る平成23年4月のこと。二ノ宮さんには「これまでの取引先に既存の技術を提供するだけでは将来の展望は開けない」という強烈な危機感がありました。また、一番近い取引先とも最低1時間は掛かってしまう秩父という立地の不便さも不安材料でした。「自社の存在価値を抜本的に見直したい」と現場に強い専務の堀安吉城さんとともに経営の革新がスタートします。
まず「板金」という単一工程からの脱皮を目指すことから始めました。設計から板金、塗装、組立てまでの「一貫生産」の確立に向け、人材の育成をスタートさせたのです。目指す人材像は「筐体製造エンジニア」。多能工になるだけでなく、担当する仕掛品が最終製品となり、ユーザーに使用されるシーンまでイメージを持って作業できる人材像を掲げました。
また、ベテラン技術者だけに依存していては技術力の底上げができないので新規採用も開始。中途採用からスタートしましたが、現在は新卒採用も行っています。その結果、従業員の平均年齢はかつての45歳から30代後半まで若返っています。
さらに、次の成長に向けて国際化を計画します。取引先との関係からフィリピンを候補国とし、再来年を目途に生産拠点の確立を目指しています。ここでもまずは人材ありきと考え、中小企業で海外展開に成功したモデルケースを研究。立ち上げ期は日本人でなく現地で採用した人材を育成し、キーパーソンにした方がうまくいくという結論に至りました。
問題は、その採用をどうするかでした。中小製造業によく見られる「技術研修生制度」では期間が3年と限定され、その後の自社への採用が制限されてしまいます。そのため、独自の採用ルートを構築するため、現地の大学に出向き、直接的な採用活動に挑戦したのです。
一方、フィリピン側も自国の未来の製造業を担う人材を育てたいと積極的。学生たちへ会社のプレゼンテーションを直接する機会が与えられました。その結果、大学院卒の優秀な人材の採用に成功します。彼は先月に入社し秩父の工場で、将来の海外展開を支える〝金の卵〟として元気に働いています。
業況が厳しい中でも、人材の育成と国際化への対応という企業の基礎体力を強化する取り組みで新たな展望が見えてくる好事例です。
最新号を紙面で読める!