今号は、筆者が毎年出講している山形県・酒田商工会議所「創業塾」のOGの事例をご紹介します。
後藤加奈子さんは2年前の講座に参加されました。20年にわたってアパレル販売に従事し、セレクトショップの店長などを務めてきましたが、苦労の連続だったようです。勤務先の業績悪化による閉店などで6回の解雇を経験。ですが、責任感が強く仕事熱心なので、店を変わっても慕ってついて来てくれるお客さまが多かったことが救いとなりました。
後藤さんは1児を持つシングルマザー。子育てと仕事の両立は大変でした。風邪をこじらせたわが子が寝込んでいる中、一人残して仕事に出るのは「本当につらかった」と振り返ります。そんな後藤さんを支えたのは、アパレル販売は自分の天職であるとの信念。そして、これまでの苦い経験から、勤務先の都合で振り回されることのないよう自分の店を持ちたいという気持ちが固まっていきました。
そして平成26年4月にセレクトショップ「Pua」を酒田市内にオープンします。ターゲットは、よりおしゃれなものを着たいという40~50代の女性。彼女たちは潜在的な不満を抱えています。量販店の商品では品質はまずまずで、値段も安いのですが、画一的で個性を出せないと考えているのです。この層は家庭を持つ主婦で、仙台や東京まで出る時間はありません。また、ネットショップでは質感も分からず試着もできません。多忙なお客さまに代わって後藤さんがその好みを把握、〝購買代理人〟となって地元店にはない一番合った服を調達するイメージです。
店は8坪で仕入れ資金も限られるため、毎回の仕入れは真剣勝負です。お客さま一人ひとりを念頭に置いた1点仕入れが中心。そのため、当該顧客にとっては自分の好みにあった一着を入手できる、つまり、おしゃれなセレクトをしてくれる専任アドバイザーが付いているようなものです。
この仕組みはターゲットのニーズに合致し、お店の評判は口コミで広がっていきました。また、セールをしない方針を貫いているため、一点当たり単価は当商圏ではかなり高めの1〜4万円。「売れる商品を仕入れ、お客さまに喜んでいただいてきっちり売る」ことを念頭に置いているからです。セレクトショップの良さはお客さまとともにワクワクした時間を共有できることと後藤さんは語ります。選ぶ楽しさ、着る楽しさのお手伝いができることに最高のやりがいを感じるそうです。
後藤さんは、親として「希望」を持ち続ける大切さをわが子に教えたかったそうです。必死で家庭と仕事を両立させた母の背中を見てきた息子さんは今春に高校を卒業し、念願の自動車整備工として元気に勤務しています。
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