今号は、後継社長のリーダーシップにより、ニッチな業界の中で独自の存在価値を発揮している事例をご紹介します。 兵庫県小野市に神戸合成という自動車・二輪車用ケミカル製品の製造販売をする企業があります。そこへ現社長の宮岡督修さんが営業職として入社したのは昭和60年、28歳のとき。ところが、創業者で社長の義父とは事あるごとに衝突します。当時、大手自動車メーカーとの安定した取引はあるものの、1社依存体質に疑問を持った宮岡さんが新規開拓を義父に直談判するも「生意気を言うな」と一喝される始末でした。そうした中、ある日義父がポツリと言った「いずれ新分野に進出したい」との本音を聞き、宮岡さんは「将来、自分が経営者になって先代の夢を実現する」と誓いました。
その後、宮岡さんの営業テコ入れが奏功し、業績は順調でしたが、不安材料もありました。当時の主力商品は安定した需要があるものの、中国製の流入も加速し将来的には先細り感がありました。当時は、かつて抱いた「高付加価値型のメーカーになる」との夢も果たせていません。
そこで、県の経営革新計画の承認を得て政府系金融機関から低利で資金を調達。平成14年に小野市の工場団地内に工場を新設します。本格的な開発型メーカーへの第一歩でした。
宮岡さんは独自技術の開発に注力します。売上の3%もの資金を研究開発に投下したのです。狙ったのは自動車用の次世代ボディーコーティング剤。従来品は薬剤が2液あり、調合などの作業が面倒でした。機能性の高さと使用感の良さがこの商品には必須であると確信した宮岡さんは、開発陣を指揮し、1液での作業を可能にしました。さらにエンドユーザーの声にも耳を傾け、より機能性の高い製品への改良にも着手。撥水性は高いが耐久性に難がある有機のフッ素系素材、撥水性はないものの汚れがつきにくい無機のガラス系素材。これらを組み合わせた〝ハイブリッド型〟のコーティング剤を誕生させたのです。5年前からは輸出も開始。他社の追随を許さない独自製品に成長しています。
また、自動車以外の分野への転用も可能との考えから新分野進出を行います。プラスチック加工業向けには、加工用金型の防錆剤、金型から製品を剥がしやすくする離型剤など、ものづくりを支える製品群です。また、北国では必需品である家庭用除雪機の故障を防ぐペイントスプレーなど、大手企業が参入しづらいニッチ分野に特化。ユーザーの隠れたニーズを製品化しています。
後継者として抱いた一念を事業展開の中で具体的に実現できる、事業経営の可能性や素晴らしさを示す好事例です。
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