おいしい食とアクセスの良さが特徴
平成15年に静岡市と清水市が合併し、17年に政令指定都市となった静岡県静岡市。南アルプスや富士山を望み太平洋に面するこのまちは、山あり海ありの豊かな自然と温暖な気候が特徴だ。世界文化遺産に登録された富士山は、空気が澄み渡る秋から冬が見頃。県外、海外から多くの観光客が訪れる。
こうした豊かな自然が、静岡の食文化を形成してきた。「マグロ、ワサビ、桜エビなど、数々のおいしい食材があります。特に桜エビが好きです」と話す静岡商工会議所の後藤康雄会頭は、地元の食を愛する一人だ。「食に恵まれているからか、このまちの人はとても元気です」と言う後藤会頭。静岡市は、平成22年時点の健康寿命主要都市ランキングで2位に入った。「お茶を飲む文化も根付いています。子どものころからガブガブ飲んでいますね(笑)。これも、静岡市民の健康の秘訣かもしれません」。
また、東京と名阪地域の中間に位置しているアクセスの良さも静岡の魅力の一つである。東名高速道路に加え、一昨年4月には県内に新東名高速道路が開通。平成29年度には新東名高速道路と中央自動車道を結ぶ中部横断自動車道が開通する予定だ。「静岡には清水港や富士山静岡空港もあります。陸・海・空と、交通ネットワークが3拍子そろっていて、アクセスが大変便利なまちです」と後藤会頭は語る。
一方で、アクセスのよさゆえの課題もある。「静岡県民一人あたりの所得は東京都に次いで2位(平成23年度内閣府・県民経済計算)と富裕なまちであるにもかかわらず、人口流出が続いている点は見逃せません」。後藤会頭はそんな静岡を盛り上げようと各種事業に力を注ぐ。「今年1月の新春会員の集いには1200人を超える皆さまにお集まりいただき盛大に開催いたしました」。
現在の基盤をつくった 徳川家康公
若い人たちの地元離れが心配される中、地域愛の強い地元ファンも多い。彼らがまちを語る上で欠かせないのが、徳川幕府を開いた「徳川家康公」の存在だ。後藤会頭も静岡の魅力をアピールするために「I LOVE 静岡 WE LOVE 家康」とキャッチフレーズを掲げている。
家康公は今川義元の人質になっていた8歳から19歳の12年間と、駿遠三甲信の五カ国の大名を務めた45歳から49歳の5年間、そして天下人となった66歳から75歳の10年間を駿府(現静岡市)で過ごした。人生の3分の1を、このまちで過ごしたことになる。市内には家康公ゆかりの名所が点在し、家康公が眠る「国宝・久能山東照宮」、国の重要文化財「静岡浅間神社」、朝鮮通信使の宿舎として使われた「清見寺」など見どころが満載だ。
家康公によってつくられた城下町は、今日の中心市街地の骨格になったといわれている。駿府城の築城には大規模な工事が行われ、まちの産業の発展に大きく寄与した。静岡浅間神社、久能山東照宮を建てる際にも全国から宮大工、彫刻師、染師など工芸技術集団が集結。そのまま駿府に永住した彼らが伝統と技を地域の人に伝え、それが静岡の産業の始まりとされている。明治以降、漆塗りの技を応用した駿河塗、鏡台、針箱、雛具などがつくられ、さらに精密な技巧による家具がつくられるなど、徳川氏によってもたらされた産業が今日の地場産業として根付いている。
265年の歴史から知恵を学ぶ
静岡では、今「徳川時代」を振り返る機運が高まっている。来年、徳川家康公薨去四百年を迎えるからだ。
「2015年 徳川家康公顕彰四百年記念事業(家康公四百年祭)」の推進組織が平成24年8月に発足。静岡商工会議所が事務局を務める「推進委員会」をトップに、「企画委員会」「広報部会・静岡県部会・静岡部会・浜松部会・岡崎部会」で組織されている。徳川家康公生誕の地・岡崎市(愛知県)と、29歳のときから45歳までを過ごした浜松市(静岡県)とともに、家康公ゆかりの地で連携した取り組みだ。
静岡商工会議所の最高顧問でもある、德川宗家第18代当主德川恒孝氏は推進委員会の会長を務め、さまざま取り組みに参加し自らも精力的にPRしている。その一つが、「徳川みらい学会」。德川恒孝氏が名誉会長を務め、会長には静岡県立美術館館長・東京大学名誉教授の芳賀徹さん、アドバイザーには、彫刻家で「せんとくん」の作者である籔内佐斗司さん、『武士の家計簿』の著者磯田道史さんなど、そうそうたるメンバーで構成されている。「徳川時代を見直そうと昨年発足したものです。家康公は、265年も続く平和社会の基盤を築き上げました。学会では、徳川時代をあらためて研究し、そこから得た知恵や歴史的意義を国内外に発信していくことを目指しています」と後藤会頭も意気込む。
2カ月に1度開く講演会は、年間テーマを「平和社会を実現した徳川時代」と設定。4月16日に実施した今年度の第1回では「徳川家臣団大会」と題したパネルディスカッションを行い、榎本武揚氏のひ孫に当たる榎本隆充さんをはじめとする旧幕臣の子孫を招いての開催となり、大きな盛り上がりを見せた。他にも、徳川ゆかりの地を巡るバスツアーを実施するなど、さまざまなプログラムを用意している。
〝家康公のまち〟のブランド化を図る数々の取り組み
「一過性のイベントで終わらないように、未来へとつなげていくことが大切です」と話すのは、静岡商工会議所総務部次長で、家康公四百年祭推進室長を務める松下友幸さん。「徳川みらい学会は、来年の四百年祭が終わっても続けていくべき事業です。静岡が〝家康公のまち〟として国内外の人に認識してもらえるよう、家康公の御遺徳を発信し続けていけたらと考えております」。
同所では、四百年祭にちなんだ事業を中期行動計画に盛り込み、この機会をまちのにぎわい創出に生かそうと力を注いでいる。50年ごとの節目に行われるこの祭りは、盛大に行うのがならわしだという。「大正4年に行われた三百年祭では、学校も企業も10日間ほど休みとなって、市をあげて祭りを開催したと聞いています」と話す後藤会頭は、四百年祭を地域活性化の起爆剤にしたいと期待している。
平成23年4月から1年間、同所の会報『Sing』では、徳川家康公の駿府大御所時代にスポットを当てた連載を掲載してきた。24年には開所120年を迎え、1年間分の連載を一つにまとめた冊子を記念に作成。会員企業をはじめ、市民や歴史教育関係者に配布してPRに努めた。
また、静岡の大きな魅力である「食」にも着目。市内の老舗「田丸屋本店」「郷土菓子処 秋月堂」とともに、静岡の特産・ワサビを使った商品開発プロジェクトを24年にスタートさせた。全6回の会議を重ね、「わさび味噌」「山葵餅」「山葵サブレ」が完成。徳川の埋蔵金伝説に見立てた玉手箱に静岡産本山茶とともに詰め合わせ、「家康秘宝伝説」を生み出した。県が実施する25年度「ふじのくに新商品セレクション」で金賞、第54回全国推奨観光土産品審査会で農林水産大臣賞(食品部門)を受賞するなど、静岡を代表する土産品として話題を呼んでいる。
さらに、家康公ファンを増やすために昨年から同所は「家康公検定」を実施している。「生誕の岡崎・出世の浜松・大御所の静岡」と称される岡崎商工会議所・浜松商工会議所とともに、3市3商工会議所で取り組む連携事業だ。今月21日には第2回が行われる。今回は「『家康公と偉業を支えた人々』~家臣団を中心に~」をテーマに、一般公募で募った問題から100問(4者択一式)出題し、70点が合格ライン。優秀な成績を収めると、合格証のほか公益財団法人徳川記念財団から表彰状が贈られる。徳川ファンはもちろん、そうでない人も、検定を機に家康公について学んでみるのもおすすめだ。
地域一丸となって取り組む まちづくり
地域の人たちも、中心市街地に人を呼び込もうと懸命だ。
平成24年5月に設立された「I Love しずおか協議会」は、企業・団体・商店街・行政・個人で構成し、〝オール静岡〟でまちづくりに取り組んでいる。会員数は、399。静岡商工会議所も事務局として参加している。
「おまち」と呼ばれる静岡の中心市街地は、デパートやファッションビルがそろい、まち中をバスで巡れるというコンパクトさが魅力だ。しかし、郊外への大型店進出の影響を受けて人の流れが少なくなり、だんだんと減るにぎわいに地域の人たちは危機感を抱くようになった。そこで、民放や私鉄など中心市街地の企業が立ち上がり、商店街、大型店にも声を掛け、民間主導のまちづくりを目指した協議会が結成されたのだ。
「若い人たちが溢れる〝おまち〟にしたい。郊外に住んでいる若い人たちに中心地に戻ってきてもらえるようなさまざまな仕掛けをつくっていきたいですね」と語るのは、協議会会長を務める森恵一さん。まちなかに多くの人に来てもらおうと実施している仕掛けの一つが、クリスマス前に行われる「サンタフェスティバル」だ。サンタの仮装をしてまちなかをパレードするイベントで、昨年12月21日に開催した際には赤い衣装に身を包んだ500人が集結した。「きっかけがあれば、皆さんおまちに来てくれるんです」と手応えを感じている森さんは、「今年は1000人を目指したいですね」と笑顔を見せる。
若者が残りたいと思う 〝おまち〟になる
このほかにも、協議会は県内の大学生を対象としたサマーインターンも実施している。今回2回目を迎え、大学の単位認定科目となり約30人が参加。社会人からアドバイスを受けながら、グループで案を出し合い、若者を呼び込みサンタフェスティバルを盛り上げる企画をまとめ上げる。
「学生に、このまちにはどんな企業があるのかも知ってもらえる良いチャンスだと思っています。インターンを通じ、地元に残りたいと思ってもらえればうれしい」と期待する森さん。「いろいろなアイデアを一つひとつ実現しながら、イベントだけではなく、静岡市民のおもてなし力もアピールして、〝おまち〟の魅力を高めていきたいですね」と目標を語る。
静岡を愛するまちの人たちの努力と、来年の家康公四百年祭を起爆剤に、市内外の多くの人に静岡の魅力が浸透していくのが楽しみだ。
最新号を紙面で読める!