マールブルクは、フランクフルトから鉄道で約一時間、ヘッセン州中部にある人口約8万の都市。旧市街地は小高い山の中腹にあり、地元では坂の上の旧市街地を「オーバーシュタット(上のまち)」、川沿いの低地にある新市街地を「ウンターシュタット(下のまち)」と呼んでいる。
坂の上の中心市街地
マールブルクの旧市街地と新市街地は連続してひとつの中心市街地を形成しているが、高低差が大きい。旧市街地内は道が狭い上、階段が多く、車が通行できる道は限られる。このため通常の大きさのバスは旧市街地に入れず、日本のコミュニティーバスのような小さなバスが石畳で車体を揺らしながらゆっくりと建物の間をすり抜けていく。このような地形のため、マールブルクには上下移動の手段として無料の公共エレベーターが存在する。深夜・早朝時間帯は運転していないが、料金は無料で、自転車やベビーカーも乗せられることから、住民の日常的な足となっている。
大学が地域を支える
まちなかには活気があり、代々引き継がれている歴史ある店舗も多い。空き店舗が少ないのも特徴だ。マールブルクは狭い市街地に住宅が密集しており、新住民はこのまちでまず住居探しに苦労する。住居の床面積1㎡あたりの平均賃料はシュトゥットガルト、ケルン、ハンブルクなどの大都市よりも高い水準にある。
マールブルクに大学が設置されたのは1527年。童話で有名なグリム兄弟の兄、ヤコブ・グリムもこの大学で学んだ。現在の学生数は2万人を超え、人口の約4分の1を占める。教職員も含めると、このまちの住民に占める大学関係者の割合は非常に高い。
大学は中心市街地内に分散して立地しており、まちなかには学生の姿が多く見られる。市内で職を持つ人のうち約半数がサービス業、約2割が製造業に従事しているが、市内で最も多くの雇用を生み出しているのがこのマールブルク大学、次が大学病院で、このまちにおける大学の存在感は非常に大きい。
郊外には大型店集積も
マールブルクにある大学病院は市街地から見て川向の山の上にあり、自家用車かバスでなければアクセスできない。また、市内北部のヴェアダ地区には、川沿いの平地に元々工業団地として計画されたショッピングセンター街がある。ヴェアダの住宅地はこのショッピングセンターとは離れた山沿いにあり、自動車を持たない住民はバスで買い出しに出なければならない。加えてこのショッピングセンター街はその他の住宅街とも離れており、アクセスはバスと自動車に限られる。
病院や店舗などの大規模施設が土地を求めて都市郊外に展開する例はドイツでもよく見られるが、日本と比較して土地利用の自由度が低いためその立地範囲はある特定の地域におさまっている場合が多く、都市が無秩序に郊外に拡散していくことは起こりにくい。マールブルクも、「都心と郊外のバランス」がある程度保たれていると言えるだろう。
遠藤俊太郎/カッセル大学(ドイツ)
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