都市再生特措法の改正
コンパクトシティを目指す、もう一つの重要な動きとして注目されるのが、都市再生特別措置法の大幅な改正である。改正のポイントは、住宅および医療、福祉、商業その他の居住に関連する施設の立地の適正化を図るため、これらの施設の立地を一定の区域に誘導するための市町村による立地適正化計画の作成である。
市町村が作成する立地適正化計画は都市全体の観点から、居住機能や福祉・医療・商業などの都市機能の立地、公共交通の充実に関する包括的で、高度な市町村マスタープランという位置付けである。また、複数の市町村で広域生活圏や経済圏が形成されている場合などには、当該複数の市町村が連携して立地適正化計画を作成することもできる。
市町村は、住宅および医療施設、福祉施設、商業施設その他の居住に関連する施設の立地の適正化に関する立地適正化計画を作成することができるが、同計画には、その区域のほか、居住を誘導すべき区域である居住誘導区域および居住に関連する施設の立地を誘導すべき区域である都市機能誘導区域を記載することができる。
同法で推奨している多極ネットワーク型コンパクトシティとは、医療・福祉施設、商業施設や住居などがまとまって立地しているまちのことである。あるいは、高齢者をはじめとする住民が自家用車に過度に頼ることなく公共交通により、医療・福祉施設や商業施設などにアクセスできるといった、日常生活に必要なサービスや行政サービスが住まいなどの身近に存在するまちのことである。
なぜ、多極ネットワーク型コンパクトシティと呼ぶかというと、これまでのコンパクトシティ論は誤解されてきたという認識による⑴。その最たるものが、市町村内の、最も主要な拠点である大きなターミナル駅周辺などの1カ所に、全てを集約させるという一極集中論である。そうではなく、多極ネットワーク型コンパクトシティは中心的な拠点だけではなく、旧町村の役場周辺などの生活拠点も含めた、多極ネットワーク型のコンパクト化を目指すものである。
したがって、全ての人口の集約を図るものではなく、たとえば農業などの従事者が農村部に居住することは当然であり、農村部でも集約で一定エリアの人口密度を維持するが、全ての居住者や住宅を市町村の主要な1カ所に集約させることを目指すものではない。また、居住者や住宅を強制的に短期間で移転させる強制的な集約ではなく、インセンティブを講じながら、時間をかけて居住の集約化を推進する、誘導による集約である。
マスタープランの必要性
コンパクトなまちづくりにはマスタープランが不可欠であるが、わが国では総合的、横断的なマスタープランがつくれないし、つくっても機能しないといった現実があった⑵。その理由は、都市の根本についてのコンセンサスがない上に、最大の問題である土地政策に手がつけられなかったからである。また、役所・産業・アカデミズムに存在する縦割り型の社会構造が強固に存在し、これらを横断する計画が成立しないからである。行政処分や規制を行う農林、道路、公園、建築といった多くの団子が実体を構成しており、マスタープランは横串だが、団子の中身は変えられないといった限界が存在していた。そもそも、鉄道や港湾は団子からも外れていたのである。
立地適正化計画がこのような課題を解決して、真のマスタープランになることを期待したいところである。それなしに、わが国の諸問題を解決するコンパクトシティは形成されないからである。
横森豊雄・関東学院大学教授
⑴ 国土交通省(2014)『改正都市再生特別措置法等について』平成26年9月1日時点版
⑵ 簑原敬他(2014)『白熱講義これからの日本に都市計画は必要ですか』学芸出版社
最新号を紙面で読める!