再び鉄道路線図に載ったまち
ドイツでは、モータリゼーションの進展などにより鉄道の利用者が減少し、これまでに多くの地方線区が廃止されてきた。その中で、旅客輸送の廃止から20年以上たってトラム(次世代型路面電車/LRT)路線として鉄路が復活したまちがある。ヘッセン州北部の小都市、ヘッシシュ・リヒテナウだ。
ヘッシシュ・リヒテナウは、近隣の大都市カッセルまで約25㎞、車で30分の距離にある。13世紀から続く歴史的な地区を中心に、1900年代以降に建設された住宅地・工場からなる人口1 2000の美しいまちだ。
このまちを走る鉄道の旅客輸送が廃止されたのは1985年。廃止直前には一日7・5往復の列車が走っていたが、カッセル行最終列車が17時台と、決して使い勝手が良いものではなかった。しかし、廃止から20年以上経過した2006年、残されていた鉄道インフラを活用し、このまちを終点とする新しいトラムが開業した。
ルート変更と本数増で利便性が向上
再開業のきっかけは、沿線の人口増加。再開業構想は1990年前後からあったが、計画が具体化したのは1997年。その翌年からカッセル市内のトラムを延伸する形で段階的に開業、2006年に新たな終点となるヘッシシュ・リヒテナウに達し、このまちは再び路線図に載ることとなった。
既存のインフラを活用できるとはいえ、再開業区間の沿線3自治体の住民は合わせて2万人。過去に一度廃止された路線をそのまま復旧しても多くの利用は見込めない。そこで、トラムとしての再開業に当たって、利便性向上のため多くの対策が取られた。
その一つが、運行ルートの変更。途中、線路が集落から離れる区間があり、住宅街からのアクセス性に難があったことから、これをバスなどで補完するのではなく市街地沿いに新たに線路を引き、駅そのものを近づけることで住民のトラム利用を容易にした。また、終点のヘッシシュ・リヒテナウでは、かつてまちの外れにあった駅は使わず、まちなかまで線路を引き込んでいる。駅(停留所)は7カ所から18カ所に増え、終点ヘッシシュ・リヒテナウまで一日34往復を運行するとともに、運行時間帯の大幅な改善を図り、利便性は飛躍的に向上。今日では地域の足として活用されている。
まちなかの駅が整備を経て復活
もうひとつ、廃止された線区が復活したまちがある。ヘッシシュ・リヒテナウと同じ郡内にある人口約2万のエシュヴェーゲだ。
このまちでは、1985年にエシュヴェーゲ駅とエシュヴェーゲ西駅を結ぶ区間の旅客営業が廃止された。それによって市街地内にあったエシュヴェーゲ駅がなくなり、市街地から離れた西駅のみが残った。
しかし、2009年に同区間がリニューアルされるとともに乗り換え利便性を考慮した新しいエシュヴェーゲ駅が開業し、再び列車が走り始めた。新しい駅には窓口、売店、カフェなどが入るほか、乗り換え利便性を考慮したバス停留所、駐輪場、駐車場もあわせて整備され、駅が地域の中心的な交通センターとして機能している。
廃線の再整備・再開業は、ドイツのほか英国などでも目にすることができる。いったん役目を終えたとされるインフラも、地域の「資産」として新たな観点から見直してみることが大切だ。
遠藤俊太郎/カッセル大学(ドイツ)
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