師走のにぎわいを支える小さなまち
12月に入り、ドイツはクリスマス一色になっている。ドイツでは、例年11月下旬から年末にかけて、通りや建物にイルミネーションが設置され、まちなかの広場でクリスマスマーケットが開催される。クリスマス飾りや民芸品、菓子・軽食などの屋台が並び、地元住民や観光客でにぎわう光景はまるで「酉の市」のようだ。
いてつく寒さの中、香辛料や砂糖が入ったホットワイン「グリューヴァイン」で温まるのがドイツ流。1カ月間毎日開催できる集積がない小さなまちでは、12月中の一週末限定でクリスマスマーケットを開くケースも見られる。
観光地としても有名なドイツ東部のまちドレスデンでも、まちなかの広場でクリスマスマーケットが開かれ、大きなツリーとピラミッドの足元で人々がクリスマス前のひとときを楽しんでいる。このピラミッドをはじめとするクリスマス用品の産地として特に名が知られているのが、同じくドイツ東部・エルツ山地にある小さなまち、ザイフェンだ。
木工への転換と技術の継承
ザイフェンはドレスデンから車で約1時間半、チェコとの国境に近い、人口約2400の小さなまち。地域の中心都市であるフライベルクからも車で約50分かかる、山あいのまちだ。
かつてはスズをはじめとする鉱業が地域経済を支えていたが、1600年代から木製玩具の生産を始め、国内外に多くの製品を出荷してきた。特に、品物の重さによって関税が課されていたことを受けて、輸出用に開発された軽くて小さいマッチ箱サイズのミニチュア玩具は海外で大きな人気を博したといわれている。厳しい東独時代にあっても伝統技術を維持し続けたこのまちには、今日でも100を超える工房が残っている。
地場産業が観光の目玉に
主力製品は先述のピラミッドやくるみ割り人形、半円形のろうそく台、オーナメントをはじめとするクリスマス関連の装飾品や動物などの木製玩具。手づくりで、品質は折り紙つきだ。まちは小さくアクセスも決して良くないが、東西ドイツ統一後の1991年からはクリスマスマーケットも開かれ、年間約7万人が宿泊する観光地ともなっている。まちにはおもちゃ博物館があるほか、見学や製作体験が可能な工房も多い。
ザイフェンを中心とするエルツ山地は保養地としてもPRしており、地名も保養地を意味する「クアオルト」をつけ「クアオルトザイフェン」として売り出している。冬は降雪も多いが、この地域が最もにぎわうのはクリスマス前の今。観光客向けに域内の公共交通、博物館などが自由に利用できる「エルツ山地カード」(48時間有効、4日間有効の2種類)も用意されている。ドイツのクリスマスを彩るザイフェン製の木工品は、今日も小さなまちの小さな工房で熟練した職人の手によってつくられ、地域経済を支える原動力となっている。
遠藤俊太郎/カッセル大学(ドイツ)
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