本日の日本商工会議所第131回通常会員総会には、コロナ禍にもかかわらず、ご来賓の皆さま、全国各地の商工会議所から、多数の皆さまにご参加いただきました。
また、本総会は、感染拡大防止の観点から、リアルとオンラインによるハイブリッド型で開催しており、オンラインからも多数の皆さまにご参加いただき、誠にありがとうございます。
まず、7月豪雨やその後の台風で被災された皆さま、および新型コロナウイルス感染症により深刻なダメージを受けている皆さまに、心からお見舞い申しあげますとともに、一日も早い生活の再建と事業の再開・回復が進みますことを祈念しております。
さて、1月16日にわが国で初めて新型コロナウイルス感染者が報告されてから8カ月が経過しました。全国の商工会議所におかれては、「新型コロナウイルスに関する経営支援窓口」を設置し、事業者からの資金繰りなどの相談に寄り添ってご対応いただくとともに、地域の需要創出などに日々積極的に取り組んでおられます。社会経済活動を支える「エッセンシャルワーカー」としての515商工会議所の役職員、経営指導員はじめ関係各位の活動に対し、心から敬意を表します。
わが国経済は、感染拡大により緊急事態宣言の出された4―6月期GDPが年率換算で実質マイナス28・1%とリーマンショック後を超える過去最大の減速となりました。
宣言解除後、経済活動や消費マインドは回復基調に転じましたが、感染再拡大への強い警戒感から、8月の日商LOBO調査の全業種業況DIは7月から横ばいと、回復に力強さを欠く状況が続いています。
中小・小規模事業者の多くは、需要の蒸発という経験したことのない事態に見舞われ、その後も極めて厳しい経営環境に置かれています。各種融資や雇用調整助成金、持続化給付金などを最大限活用し、生き残りや雇用維持のため必死に踏みとどまっていますが、活動制約が残る中、中小・小規模事業者の事業継続へのきめ細かな支援の継続が必要です。今後、さらなる感染拡大で再び緊急事態宣言という事態に陥れば、倒産や廃業が急増することを強く懸念しています。
従って、今後新たな感染の波が発生しても経済活動レベルを極力落とさずに済むよう、感染拡大防止と社会経済活動を両立できる環境を整備することが最優先の課題であり、日本商工会議所では、社会経済活動維持の基礎的インフラである検査体制の拡充と医療提供体制の安定化を政府に要望しました。8月の政府の取り組み方針にわれわれの意見が反映されましたので、国民や事業者が過度に萎縮することなく活動できる環境整備に向けて、取り組みの確実な実行を求めてまいります。
一方で、コロナ禍が長期化する中では、公助に頼るだけでなく、経営者自らがこの苦難を乗り切る、自助による取り組みも重要です。従来型の経済活動が制約される中、新たな販路の開拓やビジネスモデルの見直しなども必要であり、商工会議所にもこれまで以上にきめ細かな経営支援が求められています。
1 高まる「不確実性」への対処~国家運営ビジョンの策定~
昨日、菅内閣総理大臣が誕生しました。
新政権におかれては、まずは感染拡大防止と社会経済活動の両立に全力を尽くしていただきたいと思います。日本がコロナによるダメージを最小限に抑え、そこから余力を残して抜け出せるかどうかは、今後の世界におけるわが国の地位を大きく左右させます。今は、まさにその重大な瀬戸際にあると認識しています。
併せて、コロナから抜け出した後に、どのような日本を目指すのか、国の進むべき道を示していただきたい。私も、政府の会議体などを通じてその議論に参画させていただく所存です。
われわれは、今回のコロナ禍でたくさんのことを学びました。その一つは、強く豊かな国でなければ国民を救うことはできないということです。今後も激甚化する自然災害や新たなパンデミックなどは、いつでも、どこでも起きる可能性があり、また国際政治は不安定化し、経済も全世界でかつてない落ち込みを見せています。
このように極めて不確実な時代を生き抜いていくためには、変化に迅速に対応する柔軟性が不可欠であり、国家運営の基軸に、リスクに備えることで不確実性を吸収できる「戦略的ゆとり」を賢く組み込んだ国家運営ビジョンの策定が必要です。これを可能にするために、デジタル技術などを活用した日本全体の生産性の向上に再度真剣にトライするべきだと思います。
その際に大事な視点は、今回のコロナ禍で学んだことを踏まえ、「変えるべきもの」を積極的に変えると同時に「残すべきもの」をしっかりと守り受け継いでいくということです。具体的に3点申しあげます。
一つ目は、「デジタル」と「リアル」です。コロナ禍でテレワークなどを体験し、多くの国民がデジタル技術の有用性を実感しました。同時に、家族・友人・社会との絆など、リアルの重要性も改めて再認識されたのではないでしょうか。行政手続きや企業内事務のデジタル化・効率化は、今度こそ進めなければなりませんが、一方で、その場にいなければできないリアルな体験や、対面での濃密なコミュニケーションの価値はこれまで以上に高まるものと考えます。
二つ目は、「分散」と「集中」です。
コロナ禍で、都市に人口が集中することのリスクやコストの大きさが顕在化し、地方居住への関心が高まるなど、地方創生の絶好の好機が訪れつつあります。人の地方への分散をバランスよく推進する一方で、金融や情報では、都市の持つ高い集積効果を生かし国際競争力をさらに高め、世界から人や資金を引き付けることも必要です。
三つ目は、「経済安全保障」と「グローバリゼーション」です。
コロナのような非常時にはどの国も自国第一主義となり、グローバルサプライチェーンは必ずしもうまく機能しません。経済安保のみならず、医療や食糧の分野でも、有事を想定したリダンダンシー、すなわち「戦略的ゆとり」を組み込むことが必要です。しかし一方で、経済合理性に基づいて構築された効率的な自由貿易体制を守ることも日本の国益であり、今後とも健全な自由貿易体制の維持・発展に、同様の考え方を持つ国々とともに、リーダーシップを発揮していかなければなりません。
2 中小企業の活力強化、新たな付加価値の創出
中小企業に目を転じると、不確実性が高まる世界において、中小企業の活力を高めていくための政策は、三つあると考えています。
第一は、「環境変化への柔軟な対応支援」です。
わが国には、戦争やリーマンショック、東日本大震災など、幾多の危機を乗り越え100年以上続く企業が、100社に1社すなわち3万社以上ありますが、こうした企業の長寿の秘訣(ひけつ)は、環境変化への対応力にあると思います。
中小企業の経営者は現場の課題をよく分かっており、覚悟を決めれば、環境変化に大胆かつ素早く対処していくことが可能なのです。従って、コロナを契機として新製品やサービス開発、国内外への販路開拓、事業承継などに積極的に挑戦する経営者を後押しする政策を整備することで、コロナ禍を十分克服していけるものと確信しています。
第二は、「生産性向上へのデジタル実装」です。
コロナ禍をきっかけに、デジタル化の遅れが表面化し、経営者のデジタル活用への意識も高まっています。日本商工会議所の調査では、厳しい経営状況の中でも4割を超える中小企業が社内業務の効率化などのデジタル投資に意欲を示していますが、デジタル化を推進する人材が圧倒的に不足しています。
中小企業目線でデジタル化支援できる専門人材を活用し、クラウドなどのIT導入支援による業務プロセス改善から、デジタル技術をフルに活用した売り上げや付加価値向上などのビジネス自体の変革に至るまで、ステップに応じた中小企業のデジタル実装を後押ししていくことが重要です。
第三は、「取引適正化」です。
われわれ商工会議所は、大企業と中小企業が強固に結びついた日本経済の強さを、大中小の石が組み合わさって風雪に耐える「石垣」の強さに例えてきましたが、この石垣も修復すべき時期が来たと思います。特に製造業では、過去20年以上にわたり、中小企業が生産性を向上させても不利な取引価格により付加価値が目減りし、設備投資や人件費の引き上げが困難になっています。
こうした状況を正すため、私は、コストアップや付加価値をサプライチェーン全体でフェアに分け合う「大企業と中小企業の新たな共存共栄関係」が必要と訴えてまいりました。
これを受けて6月に、価格・知財などの取引条件の適正化を図る「パートナーシップ構築宣言」が創設され、9月16日時点で414社が宣言しています。ぜひとも多くの皆さまにご賛同いただき、宣言および実行に加わっていただきたいと思います。
3 地方分散型社会に向けた地方創生の再起動
先ほども申しあげたように、コロナ禍で東京一極集中のリスクやコストが予想以上に大きいことが判明し、企業の地方移転や2拠点居住など、場所と時間にとらわれない働き方への関心が高まっており、地方創生に真剣に取り組む好機を迎えています。
全国の商工会議所におかれては、地元自治体との連携をより緊密化し、集積と分散のリバランスの観点から、地方移住促進や魅力的な地域づくりなど、地方分散型社会に向けた地方創生にリーダーシップを発揮していただきたいと思います。
特に、地域の基幹産業である第1次産業は、生産や雇用確保の面で大きな可能性を秘めています。塩尻商工会議所が地元JAと連携し、コロナで仕事が減少している中小企業の従業員と人手不足の農家をマッチングする雇用維持事業を実施するなど、各地で農商工連携での事業が進んでいます。
デジタル技術を活用した生産性の向上や、国内での食糧確保、3密を避けた働き方などの観点からも、今後ますます注目を浴びるポテンシャルがあると思います。日本商工会議所としても、農林漁業団体と商工団体との連携を緊密化し、第1次産業の成長産業化を後押ししてまいります。
また、地域経済に活力を取り戻すためには、裾野の広い産業である観光振興が欠かせませんが、当面は、感染防止と観光振興の両立という難しいかじ取りが求められます。全国の商工会議所では、インバウンド需要が期待できない中、GoToキャンペーンの活用、マイクロツーリズムなどによる国内観光需要の取り込みや、クラウドファンディングを活用した地域横断的な飲食・サービス業の支援などに注力されています。
日本商工会議所も59商工会議所と連携し「みらい飯(めし)」事業を実施していますが、域内需要創出に向けた皆さまの取り組みを引き続き後押ししてまいります。
最後に、コロナ禍で先行きが見通せない中、国民が希望を持ち、力を合わせて取り組める共通のイベントがぜひとも必要です。来年の東京オリンピック・パラリンピックを感染拡大防止と社会経済活動を両立させる象徴的なターゲットとして位置付け、大会開催を可能とする条件を明確にし、招致運動の時と同様、再び皆の心を一つにして、これを実現する国民運動を盛り上げてはいかがでしょうか。
併せて、来年で10年を迎える東日本大震災からの確実な復興と福島再生への支援も継続してまいります。また、各地で大規模自然災害が頻発する中、災害に備えたBCP対策にも取り組んでいく必要があります。
以上、所信の一端を申し述べました。
先行きを見通すことは困難でありますが、当面はこうした不確実性が常態化するものと覚悟して、縷々(るる)申しあげた課題の克服に挑戦していくしかありません。
日本商工会議所では、全国の商工会議所や連合会、青年部、女性会、海外の商工会議所などとのネットワークを最大活用し、皆さまとともに、中小企業の発展、地域の再生、ひいては日本の再生に向けて、私自身が先頭に立って、頑張ってまいります。
引き続きの皆さまの多大なるご支援、ご協力をお願いして、私のあいさつとさせていただきます。
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