世界の経済情勢が先行き不透明な中で、フィリピン経済がアジアの中で絶好調である。フィリピン国家統計調整局(NSCB)によると、昨年第2四半期のGDP成長率は中国と並んで7・5%、また、昨年上半期のGDP成長率は7・6%といずれも東南アジアの中で一番良い経済成長率の数字となっている。3年に一度行われる上院、下院、州知事などの選挙需要(昨年5月に実施)で0・2~0・4ポイント程度成長率が押し上げられたという特殊事情を除いても、非常に好調であることに違いない。
国家予算に匹敵する海外からの送金
フィリピンのGDPの7割は消費であるが、この消費を支えるのが海外に約1000万人いる出稼ぎ労働者からの約214億ドル(2012年)に及ぶ送金である。この送金額は銀行送金によるもののみをカウントしており、実際には銀行を通さずに直接本人が帰国して、家族に現金で持参するなどの方法で渡しているお金を含めるとこの額の倍近くあるといわれている。仮に海外送金の額が公式統計の倍の428億ドル近くあるとすると、フィリピン政府の13年度予算が約490億ドルであったので、国家予算にほぼ匹敵するほどの規模のお金が毎年、海外からフィリピンに送金されていることになる。
一般的にフィリピン人は大家族主義であり、家族思いの人々である。出稼ぎ労働者の多くは海外での生活でできるだけ節制し、家族に少しでも多くの額を送金できるように努力をしている。しかしながら、送金された側のフィリピンでは扶養家族が多いこともあって、それらはあっという間に食費や教育費などに消えてしまう。これがこの国の消費を活発にさせている大きな要因である。なお、海外への出稼ぎ労働者と聞くと、建設現場の労働者やメイドなどの単純労働者をイメージするかもしれないが、この出稼ぎ労働者の中には医師や看護師、エンジニア、船員、秘書など、専門技術を持つ高給取りの職種も含まれている。実際、この214億ドルのうち半分以上は、専門職が比較的多いと思われるアメリカ、カナダで働くフィリピン人からの送金である。
不足する国内雇用と日系企業への期待
大まかに言って、フィリピンの全労働人口約4100万人の4分の1は海外で働いているが、この大きな理由の一つには国内に雇用の場がないことが挙げられる。ここ数年、名目GDPの額は大きく増え、経済成長が持続しているにもかかわらず、失業率は7%前後で高止まりしている(表1)。また、表2を見てもわかる通り、失業率7%という数字はタイの0・7%、ベトナム2・0%、中国4・1%と比べて高い水準にある。加えて、今後の失業率の見通しについても、フィリピンは全人口に占める0歳から14歳までの若年者人口の割合が35%と、中国19・1%、タイ20・2%などと比べても非常に高く、労働人口の増加に国内雇用の増加が追いつかない状態が続くことが見込まれる。
フィリピンに進出している日系企業の半数以上が、大きな雇用の受け皿となる製造業であることから現地では歓迎されており、フィリピン人の間での日系企業の人気は比較的高い。今後もより一層の日系企業の進出が期待される。
(フィリピン日本人商工会議所事務局長・西澤正純)
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