ミュンスターは、ドイツ北西部、ルール工業地帯のドルトムントから約50㎞北に位置する人口約29万の都市。市内にはミュンスター大学、警察大学校をはじめとする8つの大学や大学校などがあり、人口の17%に当たる約5万人が学生だ。住民には若い世代が多く、20~30歳代が全体の約3分の1を占めている。
市内の路面電車は1954年に廃止されたため、ドイツで多く見られるLRT(次世代型路面電車システム)はなく、市内交通の主役はバスと自転車。起伏の少ない地形も手伝って、自転車の利用者が非常に多く、徒歩も含む全交通手段のうち自転車が占める割合(自転車分担率)はドイツ国内で最も高い37・6%。まちの玄関口となる中央駅前には1999年に供用を開始した、3300台を収容できる国内最大の地下駐輪場があるが、地上にも多くの自転車が止められており、その風景は日本の駅前とあまり変わらない。
専用レーンで移動も快適
中心市街地には城址があり、緑だけでなく堀や湖などの水辺空間も多い。まちなかは活気があり、自転車を降りて散策するのも楽しいまちだ。市内には2013年時点で全長468㎞におよぶ自転車道・自転車レーンのネットワークが構築され、現在も拡張を続けているほか、1万1000台分を超える公共の駐輪場・駐輪スペースが用意されている。ミュンスターの自転車道の中で重要な位置を占めるのが、旧市街地を一周する形でつくられた全長約4・5㎞の緑の回廊「プロムナード」。自動車・バイクは乗り入れできず、自転車と歩行者も分離されているため、非常に快適だ。一般的にドイツでは自転車道や自転車レーンは自転車のための空間として認識されており、市内の自転車レーンでも歩行者や自動車が自転車の通行を妨げるようなことはほとんどない。このまちには、自動車や歩行者に煩わされることなく、自転車が自転車らしく走れる空間が用意されている。
雨天時のバス利用 季節変動が課題に
他の都市でも多く見られる形態だが、バスの運行は市が100%出資する有限会社が行っており、この会社が市内への電気・水の供給も手掛けている。ミュンスターでは「バスは雨の日にしか使わない傘のようなもの」ともいわれ、雨天時には乗客が急増するほか、季節変動も激しい。バス車両、乗務員数はピーク時を見越して設定され、荒天時には文字通り「傘」の役割を果たしているが、事業者の立場からすると頭の痛い問題だ。
自転車によるトラブルもないわけではない。都心の乗り入れ禁止区域を除き、まちなかには自転車が並び、朝夕は多くの自転車が行き交う。当然、事故もある。しかし、1台当たりの占有面積は自動車の数分の1。地球環境にも家計にもやさしい。そして、健康的だ。通り沿いの店に〝立ち寄る〟ことも自動車と比較するとはるかに容易である。自転車抜きに語れないまち、それがミュンスターだ。
遠藤俊太郎/カッセル大学(ドイツ)
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