事例2 “理念経営”の推進により「日本一のライフエンディンググループ」を目指す
永田屋(神奈川県相模原市)
永田屋は1913年創業の老舗葬儀会社。代表取締役の田中大輔さんは、創業100周年を迎えた2013年に4代目として社長に就任した。先代までの時代は、永田屋に限らず業界全体に職人気質の社員が多く、後輩の指導も「見て覚えろ」という旧態依然のやり方が通用していた。田中さんは常務に就任してから、永田屋を変えようとしたが、反発を招き、離職者が増えてしまった。そんなとき、外部の人材育成会社と出会う。
理念経営の実践には社員の「共感」が不可欠
当時の永田屋は、一人の社員が葬儀の全てを仕切る傾向が強く、社員同士で協力し合うということがなかった。葬儀社で働くことは、生活のため、お金のために、という意識が強かった。
「それらを全て否定するわけではありませんが、お客さまの立場に立ったとき、そういう人に大切な葬儀を任せたいと思うでしょうか」
田中さんは常務に就任した頃から、‶理念経営〟を実践した。
永田屋の理念とは、「葬儀を通じて人の役に立ち、地域社会に貢献します」「共に働く従業員が物心ともに豊かで幸せになり、一人ひとりが働く意義と誇りを感じ、安心して将来を託せる会社となります」というもの。この理念を社員に浸透させて、よりよい会社、より働きやすい会社をつくるため、理念を言葉で伝える「言語化」と、理念を実践するための「仕組化」を実現したのだが、「社員は理念経営を押し付けと受け取り、コミュニケーションがうまくいかず、離職者が絶えない会社になってしまった」。
何がいけないのか悩んでいたとき、田中さんは共鳴できる人材育成会社を知り、学び、気付きを得た。
「私の理念経営に足りなかったものは、『言語化』と『仕組化』の間に入る『共感化』でした。理念の実現を共に目指したいという社員の共感が得られなければ、仕組みが生きません。また、私自身が経営者としての目的、人生の目的を持って変わるべきだと気が付きました」
一貫性の重要性を教えた「ピラミッド」(前述「総論」の「従業員が育つ!POINT①」図参照)と「選択理論」(自分の行動は他人に選択されず、他人に行動を選択させることもできないという理論。前述「総論」の「従業員が育つ!POINT③」参照)からは、
「部下に対していくら強い言葉を投げ掛けても動かないし、変わらないことを学びました。また、私の態度や言葉には、愛情や感謝が足りなかったと反省しました」
そこで理念・目的・行動指針などを記載した冊子「アファメーションブック」を作成して、いつでも携帯してもらうよう促し、毎日の朝礼や理念浸透ミーティングなどで唱和して浸透を図っている。
感謝を伝える方法としては「サンクスカード」を取り入れ、従業員同士で感謝を具体的に伝えるようにした。月2700~2800枚がやりとりされているが、その内容は単なるありがとうではなく、「アファメーションブック」に記載されたどの行動指針に即していたのかまで書く。そこまで書くことで、理念に即した行動の再確認ができるし、相手は承認された喜びが得られる。
田中さんが役職者に対して行っている面談もこう変わった。
「面談を悩み相談ではなく、フィードバックと位置付けました。相手を私の言葉で変えるのではなく、相手が目指す目的・目標に対して、現在いる地点を伝えて気付きを促し、今後どうしていきたいと思う?と話して、自分で解決策を見つけてもらいます」
田中さんが人材教育のアチーブメントで学んで4年半、田中さんも社員も大きく変わり、理念が浸透し、言行一致が実現、考え方や行動に一貫性が生まれた。
「当社の強みは、一貫性だと思います。お客さまは一貫性のある会社だから信用してくださる。そういう会社をつくり上げた社員たちは素晴らしいし、仕事に対する誇り、生きがいを持って働いています」
永田屋の社員育成のポイントは、社員を変えようとするのではなく、①なぜ葬儀の仕事でなければならないのか、②なぜ永田屋で働いているのか、③永田屋で働くことで自分がどうなりたいのかという3点を明確にすることだという。この育成ポイントは、どの会社にも通用するはずだ。
葬儀業界では珍しい新卒採用に力を入れる
永田屋は葬儀業界では珍しく新卒社員の採用に力を入れている。
「葬儀社は中途採用が当たり前で、当社も他社と同じでした。ただ、中途採用社員は、理念浸透教育が難しいという課題がありました。今までの人生経験が邪魔をして、自分自身がどうなりたいという目標を持つことに消極的になり、成長の可能性にふたをする。そのふたがなかなか開けられないのです」
一方、新卒社員は理念浸透教育がしやすい半面、22歳、23歳という若さで高齢の顧客の相手ができるのかという危惧があった。
「しかし、当社の次の100年をつくることを考えたときに、これまで以上に理念経営を推進する必要があるし、土台からつくっていく必要があると考えて、新卒採用に踏み切りました」
その成果は如実に現れている。
「当社は100年企業とはいえ、まだ課題が多く残っていて穴だらけです。その穴を見て不満を抱くのではなく、新卒1期生は『その穴を私たちが埋めていきます』と言ってくれて、2期生、3期生の育成に携わっています。(社長に就任した)7年前にはあり得なかった。感動しますよね」
会社として社員に課す目標にも工夫がある。10年後の永田屋の姿を示して、逆算して今に落とし込む方法だ。分かりやすく数値目標を例に取れば、従業員を現在の114人から300人に増やす。拠点の数を7拠点から二十数拠点に増やす。葬儀の数を年間約1400件から4000件に増やす。その10年後の姿から逆算した5年後、3年後の話をして、「だから来年の目標はこうなる」というふうに説明している。
「当社は葬儀を地域貢献、社会貢献と位置付けています。もっと社会貢献をするためには影響力のある葬儀社になる必要があります」
そう語る田中さんは、葬儀社はシニアマーケットの中心にいると捉え、その優位性を生かして、30年後には、医療(見守り)→介護(みとり)→葬儀(見送り)まで、一貫して携わることができる「日本一のライフエンディンググループをつくる」という目標を持っている。
「採用活動でもその話をすることによって、共感してくれた学生さんが応募してくれます。今年のオンライン採用では、岩手県など遠隔地からの学生の入社も決まりました」。ここに、永田屋が新卒採用できる秘密がある。
永田屋の次の100年に向けた取り組みは、田中さんの理念経営によって着実に成果を上げている。
会社データ
社名:株式会社永田屋(ながたや)
所在地:神奈川県相模原市緑区橋本8-1-1
電話:042-772-2554
HP:https://www.e-nagataya.com/
代表者:代表取締役 田中大輔
従業員:114人
※月刊石垣2020年12月号に掲載された記事です。
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