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真壁昭夫の経済底流を読み解く 前途多難な2021年 どんな年になるだろう?

昨年10月以降、世界的に新型コロナウイルスの感染が再拡大した。感染再拡大が経済に与える影響は大きい。感染拡大を防ぐためには、人の移動を制限せざるを得ない。人々が外出しなくなると、消費(需要)は減り、生産(供給)活動も落ち込む。世界経済が新型コロナウイルスを克服し自律的な回復を目指すためには、ワクチンによる感染拡大の押し下げの効果が必要になる。

2020年4月中旬に底を打った世界経済は、12月中旬の時点で強弱入り混じったまだら模様の状況だった。主要国の中で景気回復が先行しているのは中国だ。共産党政権による自動車販売補助金の延長や、高速鉄道敷設をはじめとする公共事業の実施が経済成長を支えている。次いで景気が回復しているのが米国だ。トランプ政権の感染対策は米国社会に大きな傷を残したが、失業給付の特例措置やFRBによる金融緩和策は個人消費と株式市場への資金流入を支え、景気の回復に寄与した。米中には、アマゾンやアリババに代表される有力ITプラットフォーマーをはじめ成長期待の高いIT先端企業が多い。ITプラットフォーマーは感染を避けつつ経済活動を維持するために重要だ。ただし、11月以降の米国では感染第3波が景気の回復ペースを鈍化させている。

中国や米国に比べ、わが国や欧州で景気持ち直しの足取りが鈍い要因の一つとして、米中の有力ITプラットフォーマーに匹敵する企業が見当たらないことがありそうだ。わが国の経済は、自動車、機械、飲食、宿泊など人の動線に頼った産業が中心だ。そのため、感染対策としての移動制限の影響は、米中やIT化が進行しているアジア新興国以上に出やすい。同じことは欧州にも当てはまる。段階的なロックダウン(都市封鎖)の解除の後、12月上旬のフランスでは感染者数が高止まりした。その結果、フランス政府は移動制限の緩和を一部延期した。以上をまとめると、7―9月期に比べ、10―12月期の世界経済では感染再拡大が人々の移動を制限し、景気回復のペースが鈍化した。

2020年12月8日、英国でワクチンの接種が開始されたことは世界経済の回復にとって重要な一歩だ。同月11日には、米国のFDA(食品医薬品局)が一部のワクチンの緊急使用許可を承認した。春以降はワクチンの供給体制が整備され、世界各国で接種が行われるだろう。世界各国が集団免疫を獲得できれば、年央以降に世界経済は回復に向かうとみられる。重要なポイントは、いつ、どれだけのペースでワクチンの世界的な供給体制が整い、接種が進むかだ。想定以上のペースで、有効なワクチンの投与が広がれば、世界経済の回復時期は前倒しになるだろう。逆に、ワクチンの供給時期が遅れれば、世界経済の回復のタイミングは後ずれする。そのリスクは冷静に考えるべきだ。

また、コロナ関連のリスク以外にも、世界経済を取り巻く不確定要素は増えている。中国は経済成長の限界を迎えつつある。コロナショックを境に、中国の債務問題の深刻さは増している。特に、有力な国有・国営企業がデフォルト(債務不履行)に陥ったことは軽視できない。国家資本主義体制の強化によって経済成長と債務問題の解消を目指してきた中国ではあるが、その経済運営にはほころびが出始めたといえる。さらに、これからも米中対立は先鋭化するだろう。当初、対中制裁関税に反対したバイデン次期米大統領は、すぐにはトランプ政権の対中政策を変えない姿勢だ。状況によっては、バイデン氏が支持獲得のために対中制裁関税を重視する可能性も否定しきれない。最高値圏にある米国の株価が調整した場合には、世界の金融市場と実体経済の不安定感が高まる恐れもある。当面、世界経済の回復のパスは、相応に不透明かつ不安定なものとなる可能性がある。有力なITプラットフォーマーが見当たらないわが国の景気回復には米中以上の時間がかかり、GDPがコロナショック以前の水準を回復するには数年の時間が必要だろう。 (2020年12月21日執筆)

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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