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真壁昭夫の経済底流を読み解く コロナ禍で世界的に鮮明化する格差の拡大

1月6日、トランプ米大統領の支持者をはじめとする暴徒が、米連邦議会の議事堂に乱入し一時占拠した。その映像は全世界に放映され、米国社会の分断が深刻であることが明確になった。社会の中で亀裂=分断が起きていることは、米国だけの問題ではないだろう。コロナ禍をきっかけに、世界中で経済的な格差、保守とリベラル、人種や地域などによる違い=格差が鮮明化している。格差が拡大すると、人々の心には不安や不満が発生する。今回、そうした人々の心理が、議事堂への乱入という大事件に発展したとも考えられる。

2000年代に入り、世界経済のグローバル化が加速する中で、先進国の多くの企業は新興国の安価な労働力を活用して生産コストを抑え、ソフトウエアやIT機器の設計・開発に注力した。それがIT先端分野を中心に主要先進国の経済の成長を支えた。その裏側で、これまで民主主義を支えてきた中間層が一握りの富裕層と多数の低所得層に振り分けられ、経済格差が広がった。また、米国などでは人種間差別問題も深刻だ。これは教育や雇用面で格差拡大の一因にもなり、民間の医療保険に入ることが難しい黒人やヒスパニック、アジア系、先住民の新型コロナウイルスの感染状況は深刻だ。

20年春先、コロナショックによって世界経済は大混乱に陥った。混乱を抑えるため、主要国の中央銀行は一斉に金融緩和策に乗り出した。その結果、混乱は短期間で落ち着いたものの、世界的な‶カネ余り(過剰流動性)〟が出現した。潤沢な資金の一部は、投資資金として株式市場に流れ込んだ。また、世界各国が感染対策として人の移動を制限した結果、テレワークなど世界経済のDX=デジタル・トランスフォーメーションが進んだ。カネ余りとDXへの強い成長期待に支えられて20年3月中旬を底に米国の株価は反発し、米ナスダック総合指数は約44%上昇した。一方、コロナショックによって米国の失業者は増えた。昨年12月の失業率を人種別に見ると、黒人およびアフリカ系米国人の失業率は9・9%と白人の6・0%、および全米失業率の6・7%よりも高い。多額の株式を保有する富裕層の資産は大きく増加する一方、株式保有の少ない低所得層にはあまりメリットは及ばなかった。皮肉にも、金融緩和策には経済格差を拡大する要素も含まれていたことになる。

今後、バイデン新大統領が米国を一つにまとめることは容易ではないだろう。コロナ禍の移動制限が各国の飲食や交通、宿泊などの需要を低下させた。収束したとしても、雇用の受け皿なっている飲食などの需要は、以前の水準に戻らない恐れもある。それと対照的に、米国ではGAFAをはじめとするITプラットフォーマーがDXをけん引し、既存産業とIT先端分野の二極分化(K字型の景気回復)が鮮明だ。バイデン新大統領は大手プラットフォーマーによる寡占の是正を考えているようだが、短期間で結論が出るとは考えづらい。また、教育や医療の体制を強化し、環境に配慮したインフラ投資によって、雇用を創出するにも時間がかかるとみた方がよいだろう。ということは、経済大国である米国内でも、貧富の差や人種問題、保守派やリベラル派との対立などを解消するためには、多くの時間と政治的努力が必要になるはずだ。

わが国でも、コロナ禍によって企業経済が難しくなっている分野もあり、失業者も増加傾向をたどっている。そうした問題を短期間に、全て解決する方法はおそらく存在しないだろう。まずは人々の不安な心理状況を癒やすことが重要だ。それには、感染拡大に歯止めをかける方策が必要だ。困窮している人々に迅速に手を差し伸べることも不可欠だ。政策が紆余曲折(うよきょくせつ)したり、決断を躊躇(ちゅうちょ)したりしている時間はない。人々の不安が払しょくできたら、景気を立て直して、その福音が多くの人に分配されるように工夫すればよい。いずれにしても、格差を短期間に解決することはできないので、時間をかけて一歩ずつ前に進むしかないだろう。

(1月18日執筆)

まかべ・あきお 1953年神奈川県生まれ。76年、一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。83年7月ロンドン大学経営学部大学院卒業。メリルリンチ社ニューヨーク本社出向などの後、市場営業部、資金証券部を経て、第一勧銀総合研究所金融市場調査部長。現在、法政大学大学院教授。日商総合政策委員会委員。『はじめての金融工学』(講談社現代新書)など著書多数。

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